執行吏が有体動産に対する強制執行において、第三者所有のジュークボックスおよびこれに内蔵されていたレコードを債務者の所有と誤認し、かつ、ジュークボックス内に金銭が内蔵されていたことを看過した場合でも、右ジュークボックスおよびレコードを債務者が占有し、かつ、本件執行当時執行の行なわれた県内ではジュークボックスがほとんど普及しておらず、執行吏もこれについては特別の知識を有せず、その差押も本件がはじての経験であつたことなど原判示の事情のもとにおいては、右執行吏に過失があるとはいえない。
有体動産に対する強制執行につき執行吏に過失があるとはいえないとされた事例
民訴法566条1項,国家賠償法1条1項
判旨
国家賠償法1条1項の公務員の過失の有無は、当時の客観的な状況や当該公務員の知識・経験に照らして判断されるべきであり、特殊な物品の差押えにおいて執行吏に過失がないとされる場合がある。
問題の所在(論点)
執行吏が第三者の所有物を債務者の占有物件として差し押さえた場合において、当該物品が希少で専門知識を要するものであるとき、執行吏に国家賠償法1条1項上の「過失」が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項にいう「過失」とは、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を怠ることをいう。執行吏の差押執行における過失の有無は、執行対象物の占有状態、当該物品に関する一般的普及度や専門知識の必要性、および執行吏自身の経験等の諸般の事情を総合考慮して判断する。
重要事実
執行吏Eは、債務者Dの占有するジュークボックスおよび内蔵レコードを差し押さえた。当時、群馬県内におけるジュークボックスの普及台数はわずか5、6台に過ぎず、きわめて希少な物品であった。執行吏Eはジュークボックスについて特段の知識を有しておらず、同種の物品の差押えを経験したことも本件が初めてであった。この執行に関し、債権者側が執行吏の過失を主張して国家賠償を請求した。
事件番号: 昭和42(オ)53 / 裁判年月日: 昭和42年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】印鑑証明事務を取り扱う公務員が、偽造印鑑による印影であることを見抜けず、かつ本人を詐称する者を真実の本人と信じたことに無理がない場合には、国家賠償法1条1項の過失は否定される。 第1 事案の概要:公務員Eは、D名義の印鑑証明書の発行事務において、Dを詐称するFから申請を受けた。その際、Eは提示され…
あてはめ
本件において、差押対象となったジュークボックス等は債務者Dの占有下にあり、外形上は債務者の財産と判断しうる状況にあった。また、当時の地域情勢として当該物品は極めて希少であり、一般にその構造や属性が周知されていたとは言い難い。加えて、執行吏Eには同種の執行経験がなく、特段の知識を保持していなかった。このような諸般の事情に照らせば、執行吏が当該物品の権利関係を正確に把握できなかったとしても、職務上の注意義務に違反したとはいえず、過失は否定される。
結論
本件執行吏に過失があるとはいえず、国家賠償法に基づく損害賠償責任は成立しない。
実務上の射程
執行官の誤認による差押えが直ちに国賠法上の過失を構成するわけではないことを示す。対象物の特殊性や当時の普及度、執行官の具体的予見可能性を考慮する際の有利な抗弁として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)532 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員の職務執行上の行為について、法令の解釈に複数の有力な説があり実務も分かれている状況下で、当該公務員が特定の説に従い誠実に行動した場合には、国家賠償法1条1項の「過失」を否定できる。 第1 事案の概要:債務者が仮処分命令の条件(現状維持)に違反して建物の現状を変更したため、執行吏代理が債務者を…