判旨
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が権利の範囲確認等の行政審判を受ける前であっても、損害及び加害者を知った時から進行する。実用新案権等の知的財産権侵害を理由とする場合であっても、権利関係の公的確認を待たずに時効の起算点を認定できる。
問題の所在(論点)
実用新案権等の権利範囲について公的な審判(範囲確認の審判)を受ける前の段階であっても、被害者が不法行為の事実を認識していれば、民法724条前段の「損害及び加害者を知った時」に該当し、消滅時効が進行するか。
規範
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法724条)は、被害者又はその法定代理人が「損害及び加害者を知った時」から進行する。特許権や実用新案権等の侵害事案において、権利の範囲に関する行政上の確認審判の結果を待つ必要はなく、事実として加害による損害発生を認識した時点を起算点とすべきである。
重要事実
上告人(実用新案権者)は、被上告人の不法行為により損害を被ったとして損害賠償を請求した。上告人は、昭和25年8月30日に被上告人の本件不法行為を知っていたが、その後に行われた実用新案権の範囲確認の審判を受けるまでは時効が進行しないと主張して、消滅時効の成立を争った。原審は、当該審判以前の同日に被害者が不法行為を知ったと認定し、3年の消滅時効の成立を認めた。
あてはめ
上告人は昭和25年8月30日の時点で被上告人による不法行為の事実を具体的に認識していた。実用新案権の範囲確認の審判は、既存の権利関係を公的に確認する手続に過ぎず、この審判結果を待たなければ権利行使が不可能であったとはいえない。したがって、審判以前であっても事実を認識した同日から時効が進行すると判断した原審の事実に即した認定は正当である。なお、上告人が主張する時効中断事由については、原審において適切な主張がなされておらず、検討の余地はない。
結論
不法行為を知った時を起算点とする消滅時効の進行は妨げられず、請求権は時効により消滅しているため、上告を棄却する。
実務上の射程
知的財産権侵害に基づく損害賠償請求において、特許庁の審決等による権利範囲の確定を待たずとも、侵害の事実を主観的に認識した時点で時効が進行し始めることを示した。起算点を遅らせる主張に対する反論として有用であるが、現行法下の不法行為時効(民法724条1号)における「知った時」の解釈としても同様の論理が維持される。
事件番号: 昭和48(オ)1214 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて、症状は徐々に軽快こそすれ、悪化したとは認められないなど、受傷したのちの治療経過が原審認定のとおり(原判決理由参照)である場合には、右後遺症が顕在化した時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行する。