使用者責任において民法七二四条の加害者を知るとは、被害者が、使用者ならびに使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加えて、一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することをいうと解するのが相当である。
使用者責任と民法七二四条の加害者を知ることの意義
民法715条,民法724条
判旨
使用者責任における消滅時効の起算点に関し、被害者が「加害者を知つた」といえるためには、使用者との使用関係及び不法行為が事業の執行につきなされたと判断するに足りる事実を認識する必要がある。また、損害回復の包括的代理権を有する弁護士がこれらの事実を認識した場合には、被害者本人が知ったものと同視できる。
問題の所在(論点)
使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償請求権の消滅時効において、被害者が「加害者を知つた」といえるための要件、及び代理人の認識が本人に及ぶかどうかが問題となる。
規範
民法724条(現724条1号)の「加害者を知つた時」とは、被害者が、①使用者及び使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加え、②一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実、をも認識することをいう。また、特定の紛争解決につき包括的な代理権を授与された代理人がこれを知ったときは、本人が知ったものと解される。
重要事実
上告会社は、被上告会社の被用者Dによる手形詐取によって損害を被った。上告会社から本件損害の回復や紛争解決について包括的な代理権を授与されていた弁護士らは、昭和29年7月29日までに、Dの行為が被上告会社の事業の執行につきなされたと判断するに足りる事実を認識していた。上告会社が損害賠償請求訴訟を提起したのは、それから3年以上が経過した後であった。
あてはめ
本件において、上告会社の代理人弁護士らは、Dによる手形詐取後の紛争解決を包括的に委任されており、適切な救済手段をとるべき立場にあった。当該弁護士らが昭和29年7月29日の時点で、Dと被上告会社の関係や事業執行性に関する客観的事実を認識していた以上、上告会社自身が「加害者を知つた」といえる。したがって、同日の翌日から起算して3年が経過した昭和32年7月29日の満了をもって消滅時効が完成する。
結論
損害賠償請求権は時効により消滅しており、上告会社の請求は認められない。
実務上の射程
使用者責任特有の「事業執行性」の認識を時効起算点の要件として明示した点に意義がある。答案上は、単に加害者の氏名を知るだけでなく、715条の要件(使用関係・事業執行性)を基礎付ける事実の認識が必要であると論じる際に用いる。また、弁護士等の代理人が調査を尽くせる立場にある場合には、その認識を基準に時効が進む点にも注意を要する。
事件番号: 昭和48(オ)1214 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて、症状は徐々に軽快こそすれ、悪化したとは認められないなど、受傷したのちの治療経過が原審認定のとおり(原判決理由参照)である場合には、右後遺症が顕在化した時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行する。