判旨
民法720条の正当防衛が成立するためには、他人の不法行為が客観的に存在するだけでなく、その侵害が「急迫」であり、かつ加害行為が「已ムコトヲ得スシテ」なされたことを要する。また、通常生じないような異例の病状による損害は特別損害にあたり、加害者に予見可能性がなければ賠償責任を負わない。
問題の所在(論点)
1.他人の田に無断で立ち入り作業を行う行為に対し、加害行為を行うことが民法720条1項の正当防衛(急迫不正の侵害・やむを得ない行為)にあたるか。 2.加害行為の程度からは通常予想し得ない病状(脳神経衰弱症)による損害が、民法416条1項の通常損害にあたるか、あるいは同条2項の特別損害として予見可能性を要するか。
規範
1.民法720条1項の正当防衛の成立には、他人の不法行為という客観的要件に加え、当該侵害の「急迫」性、および反撃行為の必要性(「已ムコトヲ得スシテ為シタル」こと)を要する。 2.不法行為に基づく損害賠償の範囲(民法709条、416条の類推適用)において、加害行為の程度から通常発生しない異例の病状による損害は「特別の事情によって生じた損害」にあたり、加害者がその事情を予見し、または予見し得た場合に限り賠償責任を負う。
重要事実
被上告人ら約10名が、上告人の田に無断で立ち入り、馬を使用して植え付け準備を始めた。これに対し上告人が加害行為に及んだところ、被上告人らは正当防衛を主張した。また、上告人はこの紛争を契機に脳神経衰弱症を発症したとして損害賠償を請求したが、その加害の程度は通常そのような病状を呈するものではなく、異例の事態であった。
あてはめ
1.被上告人らが無断で田に立ち入り馬を使って作業を始めたことは「他人の不法行為」という客観的事態ではある。しかし、事実関係に照らせば、その侵害が直ちに防衛を要するほど「急迫」であったとは認められず、また上告人の加害行為が防衛手段として「已ムコトヲ得スシテ」なされた必要最小限のものとも認められない。したがって、正当防衛は成立しない。 2.上告人が発症した脳神経衰弱症は、被上告人の加害の程度からすれば通常は生じない異例の病状である。これは「通常生ずべき損害」ではなく「特別の事情によって生じた損害」と解される。そして、被上告人がそのような特別の事情を予見し、または予見し得たことを認めるに足りる証拠はない。
結論
1.正当防衛の成立を否定した原審の判断は相当である。 2.異例の病状による損害は特別損害であり、予見可能性が認められない以上、賠償請求は認められない。
実務上の射程
民法上の正当防衛において「急迫性」や「補充性・相当性」が厳格に要求されることを示す。また、不法行為の賠償範囲について、被害者の特殊な心因的反応や体質が関与する損害を「特別損害」として構成し、予見可能性の枠組みで処理する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和38(オ)409 / 裁判年月日: 昭和40年10月7日 / 結論: 棄却
他人の立木を過失により自己の立木と信じ不法伐採者に対し占有移転禁止の仮処分をした者が伐採者から示談金を受取つて仮処分を解いた場合には、該立木の所有者に対し不法行為が成立する。