慰藉料額は、裁判所において諸般の事情を考慮して量定すれば足り、その量定の根拠を逐一説示しなければならないものではない。
慰藉料額の量定に根拠を示すことの要否。
民法710条,民訴法191条
判旨
慰謝料額の算定は、裁判所が諸般の事情を考慮して量定すれば足り、その量定の具体的な根拠を逐一説示することを要しない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求において、裁判所が慰謝料額を量定する際、その算定根拠を判決書に逐一説示する必要があるか(民事訴訟法上の理由不備の有無)。
規範
不法行為(民法709条、710条)に基づく慰謝料額の算定は、事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられており、裁判所が諸般の事情を考慮してその額を決定すれば足りる。その際、判決書において算定の具体的な根拠を詳細かつ逐一説示することまでは要しない。
重要事実
上告人Aが運転する自動車が、氷の上をスリップして事故を起こした事案。原審は、事故当時の状況(1月2日の正月期間中で一般市民が休息している状況等)や被害者の状態等の諸般の事情を考慮し、慰謝料額を算定した。これに対し上告人は、原審が「1月2日を祝祭日」と認定したことの誤りや、慰謝料量定の根拠説示が不十分であること、さらには過失相殺や和解契約の成否について事実誤認があることを理由に上告した。
事件番号: 昭和34(オ)39 / 裁判年月日: 昭和36年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原審の認定しない事実を前提とするものや、実質的に原審の適法な証拠取捨・事実認定を非難するにすぎない場合は、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、原判決の事実認定に違法があるとして上告を申し立てた。しかし、その主張の内容は、原審が認定した事実とは異なる事実を前提とするものや…
あてはめ
慰謝料は精神的苦痛という性質上、客観的な算定が困難であるため、裁判所が証拠に基づき諸般の事情を総合的に評価して決定すべきものである。本件において原審が1月2日を「祝祭日」と表現した点は、厳密な法律上の国民の祝日ではないものの、一般市民が仕事を休み正月を祝う実態に照らせば不当とはいえない。また、慰謝料額の量定にあたっては、基礎となる事実(過失相殺の成否や和解の有無を含む)が適切に認定されている限り、その金額に至る詳細な計算過程や個別事情の寄与度をすべて明文化しなくとも、理由不備の違法はないと解される。
結論
慰謝料額は裁判所が諸般の事情を考慮して量定すれば足り、その根拠を逐一説示する必要はないため、原判決に違法はなく上告を棄却する。
実務上の射程
慰謝料算定の裁量権に関する基本判例である。司法試験の答案上では、慰謝料額の妥当性が争点となる場合に、裁判所の広範な裁量を基礎づける根拠として活用できる。ただし、現代の訴訟実務や近時の判例傾向では、一定の算定基準(相場)が意識されるため、裁量といえども著しく不合理な場合は裁量権の逸脱・濫用となり得る点に留意が必要である。
事件番号: 昭和36(オ)1050 / 裁判年月日: 昭和38年8月30日 / 結論: 棄却
不法行為による肉体的精神的苦痛に対する慰藉料請求を理由あらしめる事実として、当事者の主張しない「左耳が遠くなり」「時々腰痛がある」との事実も認定したからといつて、当事者の申し立てざる事項に付き判決したことには当らない。