判旨
債務不履行に基づく損害賠償請求において、過失相殺(民法418条)を適用するためには、債権者に帰責されるべき具体的な過失事実が認められなければならず、単なる事情の指摘のみで直ちに過失と断定することは許されない。
問題の所在(論点)
債務不履行に基づく損害賠償請求において、裁判所が民法418条に基づき債権者の過失を斟酌(過失相殺)するにあたり、いかなる程度の事実認定及び評価が必要とされるか。また、単なる事実の存在のみをもって直ちに過失と認定できるか。
規範
債務不履行による損害賠償の責任及びその額を定めるに際し、民法418条の規定により債権者の過失を斟酌するためには、当該事実が客観的に債権者の過失として評価されるべきものでなければならない。単に一定の事実が存在するということだけでは足りず、他にその事実を過失として首肯するに足りる具体的な付随事情が認められない限り、過失と即断することはできない。
重要事実
上告人(債権者)が被上告人(債務者)に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案である。原審は、本件における特約が損害賠償の予定(民法420条)には当たらないと判断した上で、上告人に一定の事実があることをもって、これを当然に上告人の過失として斟酌し、過失相殺を適用して賠償額を減額した。これに対し、上告人が過失の認定に不服があるとして上告した。
あてはめ
原判決は、上告人に存する特定の事実を捉えて、それを直ちに過失として斟酌した。しかし、当該事実は、他にその事実を過失と評価するに足りる何らかの事情が付け加えられない限り、いまだ過失と即断し得ない性質のものである。したがって、原審が過失の評価に必要な具体的な事情を十分に審理せず、かつ理由を明示せずに過失相殺を認めた点には、審理不尽及び理由不備の違法があるといえる。
結論
原判決中、上告人の請求を棄却した部分を破棄する。債権者の事実が「過失」として評価されるべきか否かについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
過失相殺の要件である「債権者の過失」の認定において、事実の摘示だけでなく、それがなぜ義務違反や不注意として評価されるのかという論理過程(評価の根拠)が不可欠であることを示す。答案上、過失相殺を論じる際は、単に被害者に不利益な事実を挙げるだけでなく、それが「信義則上または公平の観点から賠償額を減額すべき落ち度」といえるかを具体的に論証する際に活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)1246 / 裁判年月日: 昭和37年7月3日 / 結論: 棄却
債務不履行による損害賠償につき、債権者に過失があるとしてこれを斟酌して損害賠償額を算定する場合、必ずしも損害額を折半して算定しなければならないものではない。
事件番号: 平成2(オ)1456 / 裁判年月日: 平成6年4月21日 / 結論: 棄却
当事者が損害賠償の額を予定した場合においても、債務不履行に関し債権者に過失があったときは、特段の事情のない限り、裁判所は、損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき、これをしんしゃくすべきである。