不法行為による肉体的精神的苦痛に対する慰藉料請求を理由あらしめる事実として、当事者の主張しない「左耳が遠くなり」「時々腰痛がある」との事実も認定したからといつて、当事者の申し立てざる事項に付き判決したことには当らない。
当事者の申し立てざる事項に付き判決したことに当らないとされた事例。
民訴法185条
判旨
不法行為に基づく慰謝料請求において、裁判所は当事者が主張していない具体的な後遺障害(難聴や腰痛等)の事実を慰謝料算定の基礎とすることができ、また控訴審が第1審より高額の慰謝料を認める際に新たな事実の主張立証は必ずしも必要ではない。
問題の所在(論点)
1. 弁論主義との関係において、当事者が具体的に主張していない損害(後遺障害等)を慰謝料算定の基礎として認定できるか。2. 控訴審において、新証拠等がない場合に第1審より高額の慰謝料を認めることができるか。
規範
1. 慰謝料請求を理由づける事実関係の認定について、当事者が具体的に主張していない事実であっても、証拠等に基づき肉体的・精神的苦痛を基礎付ける事実として認定することは許される。2. 控訴審における慰謝料額の算定において、第1審の判断した額を上回る額を相当と認めるにあたり、必ずしも追加の特段の事情や新たな事実の主張・立証を要するものではない。
重要事実
上告人の不法行為により被上告人が傷害を負ったとして慰謝料を請求した事案。原審(控訴審)は、被上告人が具体的に主張していなかった「左耳が遠くなった」「時々腰痛がある」という事実を認定し、これらを精神的・肉体的苦痛の要素として斟酌した。その結果、原審は第1審が認定した額を上回る20万円の慰謝料を相当と判断した。これに対し上告人が、主張のない事実の認定や、新たな立証なしでの増額は違法であるとして上告した。
あてはめ
1. 慰謝料は精神的苦痛という包括的な損害を対象とするものであり、その苦痛の内容となる具体的な症状(難聴や腰痛)は、請求を理由づける事実関係の一部として裁判所が認定可能な範囲に含まれる。したがって、主張のない事実に基づき苦痛を認定しても理由齟齬や弁論主義違反とはならない。2. 慰謝料額の算定は、掲示された証拠関係に基づき諸般の事情を総合的に考慮して決せられる裁判所の裁量に属する事項である。控訴審が独自の判断により第1審より高額を相当とすることは適法であり、追加の主張立証を必須とする上告人の見解には理由がない。
結論
本件上告を棄却する。原審が当事者の具体的言及のない後遺障害を認定し、第1審より高額の慰謝料を命じたことに違法はない。
実務上の射程
実務上、慰謝料の算定根拠となる具体的な苦痛の内容は、請求原因事実(損害)の範囲内であれば裁判所が証拠に基づき広範に認定できる。答案上は、慰謝料額の算定が裁判所の事実認定および裁量の範囲内にあることを論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)540 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が明らかに争っている事実を、裁判所が証拠に基づかず擬制自白が成立したものとして認定することは、事実認定の法則に反し違法である。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)らが陸奥湾内で水底電線を引揚げたことにより損害を受けたとして損害賠償を請求した。被上告人は、引揚屯数約104トン…