判旨
別事件の判決と矛盾する事実認定がなされたとしても、直ちに既判力に抵触するものではなく、認定事実に基づき不法行為等の成立を否定した判断は正当である。
問題の所在(論点)
前訴の判決理由中で示された事実認定が、後訴において既判力による拘束力を有するか。また、前訴と異なる事実認定に基づき不法行為を否定した原審の判断に法令違反があるか。
規範
前訴判決の既判力は、判決主文に包含された事項(権利関係の存否)にのみ生じ、判決理由中における個別の事実認定には及ばない。したがって、後訴の裁判所が前訴判決の理由中の事実認定と異なる事実を認定しても、直ちに既判力の抵触の問題は生じない。
重要事実
上告人は、約束手形の振出人を上告人、保証人を被上告人とする手形につき、被上告人による不法行為等の成立を主張した。これに対し原審は、上告人自身が貸主から手形金5万円を受け取り、共同経営のカフェー経営資金として費消した事実を認定した。上告人は、この認定が別事件の判決(既判力)に抵触すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原審が認定した「手形金の受領および費消」に関する事実は、別事件の判決の理由中で示された事実にすぎない。既判力は主文にのみ生じるものであるから、原審が挙示の証拠により独自の事実認定を行うことは、前訴の既判力に抵触するものではない。また、当該認定事実に照らせば、被上告人が償還請求権を有すると信じるにつき悪意・過失はなく、不法行為を構成しないとする判断は論理的に是認される。
結論
原審の事実認定は既判力に抵触せず、不法行為の成立を否定した結論は正当であるとして、上告を棄却した。
実務上の射程
民事訴訟法における既判力の客観的範囲(114条1項)が主文に限られることを確認する事例。答案上は、理由中の事実認定には既判力が及ばないことを論証する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)1050 / 裁判年月日: 昭和38年8月30日 / 結論: 棄却
不法行為による肉体的精神的苦痛に対する慰藉料請求を理由あらしめる事実として、当事者の主張しない「左耳が遠くなり」「時々腰痛がある」との事実も認定したからといつて、当事者の申し立てざる事項に付き判決したことには当らない。