判旨
裁判所は、特定の証拠を信じない理由を一つ一つ明示する必要はなく、また上告審において初めて主張された民法110条に関する事由については、原判決に違法があるとはいえない。
問題の所在(論点)
1. 裁判所が証拠を排斥する際、その理由を個別に詳細に判示する必要があるか。2. 原審で主張していなかった民法110条の事由を上告理由とすることができるか。
規範
1. 自由心証主義の下、裁判所は証拠の取捨選択及び事実認定をその職権で行うことができ、特定の証拠を措信しない理由を個別に明示する法的義務を負わない。2. 上告審は事後審であるため、原審において主張されなかった新たな事実上の主張(民法110条の表見代理の要件事実等)を基礎として原判決の違法をいうことはできない。
重要事実
上告人は、原審において特定の受領書(乙第1号証)に基づき和解契約の成立を主張したが、原審はこれを認めなかった。また、上告人は民法110条(権限外の行為の表見代理)に関する事由について、原審では主張していなかった。上告人は、原審が証拠を信じない理由を明示しなかった点や、表見代理の成否について判断しなかった点を違法として上告した。
あてはめ
1. 証拠の取捨選択は事実認定の範囲内であり、15,000円の受領書が存在するからといって直ちに和解契約の成立を認めるべき義務はない。裁判所が証拠を信じない理由をいちいち明示しないことは適法である。2. 民法110条に関する抗弁ないし主張は、原審において何ら提出されていない。審級の利益を考慮し、かつ事後審としての性格上、原審で主張しなかった事実関係を前提とする非難は採用し得ない。
結論
本件上告は棄却される。原審の事実認定及び証拠排斥の手続きに違法はなく、また原審で主張していない表見代理の主張を上告審で行うことはできない。
実務上の射程
事実認定における理由不備の限界を示す。また、民法110条のような表見代理の主張は、主要事実として第1審または控訴審の口頭弁論終結時までに提出すべきであり、上告審での新主張は許されないという民事訴訟法上の原則を確認する際に用いる。
事件番号: 昭和29(オ)249 / 裁判年月日: 昭和31年5月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理の成立要件である「権限ありと信ずべき正当の理由」については、当事者が事実を主張する必要があり、原審において主張されていない事実を前提とした判例違反の主張は採用されない。 第1 事案の概要:上告人は、本件家屋をDに与えたという原審の判断に対し、民法110条の表見代理が成立する旨…
事件番号: 昭和34(オ)39 / 裁判年月日: 昭和36年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原審の認定しない事実を前提とするものや、実質的に原審の適法な証拠取捨・事実認定を非難するにすぎない場合は、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、原判決の事実認定に違法があるとして上告を申し立てた。しかし、その主張の内容は、原審が認定した事実とは異なる事実を前提とするものや…