甲船と乙船が衝突した事故について、小型船舶操縦士である甲船の船長が、海上衝突予防法所定の灯火を表示し、乙船の動静を監視していれば上記の衝突を回避することができたことを認定説示することなく、上記灯火を表示せずに甲船を進行させ、乙船を視認した後にその動静を十分に監視することなく甲船を左転させるなどした行為をもって、上記事故に係る海難につき甲船の船長に職務上の過失があるとした原審の判断には、職務上の過失に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
甲船と乙船が衝突した事故に係る海難につき小型船舶操縦士である甲船の船長に職務上の過失があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
海難審判法3条、海上衝突予防法20条1項、海上衝突予防法39条
判旨
海難審判における懲戒処分について、裁判所が裁決と異なる前提事実を認定した場合には、その事実関係の下で注意義務違反の有無や事故との因果関係を具体的に検討しなければならない。衝突回避の可能性等の具体的な認定を欠いたまま過失を認めることは、法令の解釈適用を誤った違法がある。
問題の所在(論点)
裁決が認定した事実と異なる事実を裁判所が認定した場合において、具体的な位置関係や衝突回避可能性を詳細に検討せずに「職務上の過失」を認定することが許されるか。
規範
海難審判法に基づく懲戒の前提となる「職務上の過失」の有無を判断するにあたっては、事故当時の船舶間の位置関係、速力、視認可能性、および操船状況等の具体的状況に基づき、注意義務違反(動静監視義務等)が認められるか、および当該義務違反と事故発生との間に因果関係があるかを、客観的証拠に基づき具体的に認定・説示しなければならない。
重要事実
小型漁船甲の船長である上告人は、夜間に無灯火で航行中、乙船と衝突し負傷した。地方海難審判所は、上告人に動静監視不十分等の過失があるとして業務停止1か月の裁決をした。これに対し原審は、乙船の航跡や速力について裁決とは異なる事実(慣行に反する高速航行等)を認定しながら、具体的状況の再検討を欠いたまま、上告人の動静監視義務違反および無灯火と事故との因果関係を肯定し、裁決を適法とした。
あてはめ
原審は乙船の速力や航跡について裁決と異なる事実を認めており、両船の見合関係や経過も裁決の認定とは異なっていた。しかし、原審は上告人が乙船を視認した際の位置関係や、動静監視により衝突回避が可能であったかを具体的に説示していない。また、無灯火についても、乙船からの視認可能距離や乙船側の見張り状況等を踏まえ、灯火表示があれば衝突を回避できたといえるかを判断していない。これらの具体的認定を欠いたまま過失を認めた原審の判断は、職務上の過失に関する法令の解釈適用を誤っている。
結論
原判決を破棄し、上告人の職務上の過失の有無等についてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審(東京高裁)に差し戻す。
実務上の射程
行政処分の基礎となる事実認定を裁判所が覆す場合、単に結論としての注意義務違反を維持するのではなく、認定し直した事実関係に即して、義務違反の成立要件(予見可能性・回避可能性)を改めて厳密に論証すべきことを示す。答案上は、過失の検討において具体的状況の認定が不可欠であることを強調する際の根拠となる。
事件番号: 昭和35(オ)1279 / 裁判年月日: 昭和36年4月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】海難審判法に基づき海難の原因を明らかにする裁決は、国民の権利義務に直接影響を及ぼす法的効果を持たないため、行政事件訴訟法上の処分性を欠き、その取消訴訟は不適法である。 第1 事案の概要:上告人らは、海難審判法(旧法)に基づき、発生した海難の原因を明らかにした海難審判所の裁決に対し、その取消を求めて…