霧による視界制限状態にある明石海峡航路屈曲部北側付近の航路外で西に向かう甲船と東に向かう乙船が衝突した事故について,同事故は,航路内を航行していた甲船の船長が,航路屈曲部に設置された灯浮標を見落としたため屈曲部に沿って左に転針することをせず,レーダーにより前方に乙船を探知しながらその動静監視を十分に行わず,乙船と著しく接近する事態を避けることができなくなったのに,針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行した職務上の過失により招いたものであること,両船舶に損傷が生じ乙船の乗組員2名が傷害を負ったこと,乙船の船長も職務上の過失があるとして戒告の裁決を受けていることなど判示の事情の下では,海技士である甲船の船長を戒告とした高等海難審判庁の裁決は適法である。 (補足意見がある。)
明石海峡航路北側の航路外で西に向かう甲船と東に向かう乙船が衝突した事故について,海技士である甲船の船長を戒告とした高等海難審判庁の裁決が適法であるとされた事例
海上交通安全法15条,海上衝突予防法9条1項,海上衝突予防法19条4項,海上衝突予防法19条6項,海難審判法(平成20年法律第26号による改正前のもの)4条2項,海難審判法(平成20年法律第26号による改正前のもの)5条1項3号
判旨
海上交通安全法により航路が指定された狭い水道において、同法が定める航法と海上衝突予防法9条1項の右側端航行義務は、船舶交通を整序するための考え方と方法が異なるため、特別法である海上交通安全法の規定が優先し、一般法である予防法の右側端航行義務は適用されない。
問題の所在(論点)
海交法により特定の航路および航法が定められた「狭い水道」において、航路外を航行する船舶(対象外船舶)に対し、予防法9条1項本文の右側端航行義務が適用されるか。また、同義務違反の有無が他船の船長の過失認定に影響するか。
規範
海上交通安全法(以下「海交法」)は、船舶交通が輻輳する海域において特別の交通方法を定める特別法であり、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」)に対して優先的に適用される。海交法に基づき特定の航路および航法(通航分離等)が指定された海域においては、同法が予定する交通整序の仕組みが排他的に適用され、予防法9条1項本文が定める「狭い水道における右側端航行義務」は、海交法の航法と矛盾する限度でその適用が排除される。
重要事実
海技士である上告人が船長を務める貨物船明和丸(全長52.76m)は、視界制限状態の明石海峡航路を西進中、レーダー監視不十分により航路屈曲部での転針を失念し、航路外へ進出した。一方、巡視艇ぬのびき(全長37m)は航路北側の沿岸域を東進しており、両船が衝突した。明石海峡は予防法上の「狭い水道」であるが、海交法により航路が指定され、50m以上の船舶には航路航行義務(同法4条)および右側航行義務(同法15条)が課されていた。上告人は、ぬのびきが予防法9条1項の右側端航行義務に違反して航路外の左側寄りを航行していたことが事故の原因であると主張して、自身の懲戒処分の取消しを求めた。
あてはめ
明石海峡航路は海交法に基づき、航路内の右側通航と航路外の沿岸海域という4本の通航区分により交通を整序している。これは、水道全域で右側端航行を求める予防法9条1項とは異なる独自の整序方法である。したがって、海交法上の航路が設定された以上、同海域に予防法の右側端航行義務を重畳的に適用することは、法の趣旨に反する。本件では、ぬのびきが航路外を東進していたことに同義務違反は認められない。仮に遠因として義務違反を想定し得るとしても、事故の直接原因は上告人およびぬのびき船長双方が相手船を探知しながら動静監視を怠り、減速等の回避措置をとらなかった点にある。したがって、上告人の職務上の過失は免れない。
結論
海交法上の航路が設定された狭い水道の航路外海域において、予防法9条1項の右側端航行義務は適用されない。上告人の過失を認めた裁決は適法である。
実務上の射程
海事公法における一般法と特別法の適用関係を明確にした判例である。答案上は、海交法や港則法が適用される海域において、予防法の基本原則(右側通航や行き会い船の航法)がどの程度修正されるかを検討する際の規範として用いる。特に、義務違反の有無が不法行為上の過失相殺や行政処分(海難審判)の適否に直結しない「遠因」に過ぎない場合がある点に注意を要する。
事件番号: 令和5(行ヒ)2 / 裁判年月日: 令和6年1月30日 / 結論: 破棄差戻
甲船と乙船が衝突した事故について、小型船舶操縦士である甲船の船長が、海上衝突予防法所定の灯火を表示し、乙船の動静を監視していれば上記の衝突を回避することができたことを認定説示することなく、上記灯火を表示せずに甲船を進行させ、乙船を視認した後にその動静を十分に監視することなく甲船を左転させるなどした行為をもって、上記事故…
事件番号: 昭和32(オ)817 / 裁判年月日: 昭和36年4月28日 / 結論: 棄却
一 裁判官の通常の知識により認識し得べき推定法則は、その認識のためとくに鑑定等の証拠調を要するものではない。 二 互に航路を横切る両船が「衝突ノ虞アル」見合関係にあるとは、当該両船の船長が実際に衝突の危験を認めた関係にあることをさすものではなく、注意深い船長が注意していたとすれば衝突の危険があるものと認むべき関係にある…