一 裁判官の通常の知識により認識し得べき推定法則は、その認識のためとくに鑑定等の証拠調を要するものではない。 二 互に航路を横切る両船が「衝突ノ虞アル」見合関係にあるとは、当該両船の船長が実際に衝突の危験を認めた関係にあることをさすものではなく、注意深い船長が注意していたとすれば衝突の危険があるものと認むべき関係にあることをさすものと解すべきである。
一 裁判官の通常の知識により認識し得べき推定法則と証拠調の要否。 二 海上衝突予防法(明治二五年法律第五号)第一九条にいう「衝突ノ虞アル」見合関係の意義。
民訴法第2編第3章第3節鑑定(301条以下),海上衝突予防法(明治25年法律第5号)第3章航法前文,海上衝突予防法(明治25年法律第5号)19条
判旨
海上衝突予防法における「見合関係」とは、注意深い船長が注意していれば衝突の危険があるものと認めるべき客観的な視認関係を指す。また、港則法17条と海上衝突予防法19条の適用関係につき、特別法たる港則法の適用場面でない場合は一般法である予防法が適用される。
問題の所在(論点)
1. 海上衝突予防法上の「見合関係」の発生時期を、当事者の主観的な危険認識によって判断すべきか。 2. 港則法17条と海上衝突予防法19条のいずれを適用すべきか。
規範
1.「見合関係」の意義:海上衝突予防法19条等の適用前提となる「見合関係」とは、具体的な当事者が実際に衝突の危険を認めた関係ではなく、注意深い船長(または水先人)が注意していれば、そのまま進行すれば衝突の虞があると認めるべき客観的な視認関係をいう。 2. 港則法と予防法の適用:港則法17条は、障害物の蔭から出てくる船舶との出会い頭の衝突を避ける必要がある場合等に適用されるが、同条の適用がない状況においては、一般法である海上衝突予防法の航法が適用される。
重要事実
水先人が乗船する甲船と乙船が衝突した。甲船側は、第三船(丙船)の通過前には衝突の危険を具体的に認識していなかったため「見合関係」になく、避譲義務は発生していないと主張した。また、本件は港則法17条(防波堤等の蔭からの進出)が適用されるべき場面であり、海上衝突予防法19条(横切り船の航法)の適用による責任追及は不当であると争った。原審は、丙船通過前に客観的な見合関係が成立していたとして、甲船の避譲義務違反を認めた。
あてはめ
1. 「見合関係」は客観的に判断されるべきであり、本件では丙船通過前に、注意深い船長であれば衝突の危険を認めるべき視認関係が発生していたといえる。したがって、その時点で甲船の避譲義務は確定しており、乙船が緊急措置を執らざるを得なくなったのは甲船の義務違背に基づく。 2. 港則法17条は障害物を廻航する場合等に適用されるが、本件は同条が想定する状況には当たらず、一般法である海上衝突予防法19条の航法により衝突回避が十分可能な状況であったため、同条が適用される。
結論
見合関係は客観的に判断され、丙船通過前に発生していたと認められる。港則法17条の適用場面ではないため、海上衝突予防法19条に基づき、避譲義務を怠った甲船側の過失を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
海事事件における航法の優先順位と要件解釈を示す。特に「見合関係」を主観的な「危険の認識」ではなく、客観的な「注意義務の基準」として定義した点は、過失認定の予見可能性に資する。実務上、特別法(港則法)の適用範囲を画定し、それが及ばない場合の一般法(予防法)への回帰を認める判断枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和26(オ)918 / 裁判年月日: 昭和32年2月21日 / 結論: 棄却
一 両船が互に航路を横切る場合において、両船の大少、性能、相互の方位の変化の模様その他原判決の認定する諸般の状況にかんがみれば、両船の距離が一海里乃至四分の三海里に接近した時期において、相互の方位の変化の度合いが一分間に〇・八度程度であつたということだけで、ただちに、両船が海上衝突予防法第一九条にいう「衝突の虞」がある…