一 両船が互に航路を横切る場合において、両船の大少、性能、相互の方位の変化の模様その他原判決の認定する諸般の状況にかんがみれば、両船の距離が一海里乃至四分の三海里に接近した時期において、相互の方位の変化の度合いが一分間に〇・八度程度であつたということだけで、ただちに、両船が海上衝突予防法第一九条にいう「衝突の虞」があるものということはできない。 二 互に航路を横切る両船が、そのまま進めば無難に替り行くことを相互に看取し得る状況にあつたにかかわらず、一船がその後速力を減じたため、新たに衝突の危険を惹起するに至つた場合には、同船がたとえ他船を左舷に見る関係にあつた場合でも、同船において避譲の措置を講ずる義務があるものと解すべきである。
一 互に航路を横切る両船が海上衝突予防法第一九条にいう「衝突の虞」がないものとされる事例 二 互に航路を横切る両船が、そのまま進めば無難に替り行くことを相互に看取し得る状況にあつたにかかわらず、一船がその後速力を減じたため、新たに衝突の危険を惹起するに至つた場合において、両船のいずれに避譲義務があるか
海上衝突予防法第3章航法(17条の前)前文2項、19条,海上衝突予防法19条
判旨
海上衝突予防法19条の避譲義務の発生時期は、諸般の状況により個別に判断されるべきであり、進路の交差が認められても方位の変化により無難に替り得ると看取される状況では義務は発生しない。
問題の所在(論点)
海上衝突予防法19条が規定する避譲義務が発生する具体的な時期およびその判断基準。
規範
海上衝突予防法19条(現行法上の義務等に相当)に基づく避譲義務の発生時期は、諸般の状況を総合考慮して個々の場合につき決定されるべきである。単に両船が接近し、方位に一定の変化があることのみをもって直ちに同条の適用があるとは限らず、両船がそのまま進めば無難に替り行くものであることを相互に看取し得る状況にある間は、避譲義務は発生しない。
重要事実
D丸とE丸が接近中、当日11時59分から12時2分頃までの間(距離1海里ないし3/4海里)において、方位の変化が認められていた。12時7分頃までの間には約14度の方位変更があり、両船は無難に替り行く(衝突を回避できる)状況にあった。しかし、E丸がD丸に気付かず機関を半速力に落としたため、方位の変化が止まり、新たに衝突の危険が生じた。その後、E丸は適切な避譲措置を講じず衝突に至った。
あてはめ
本件では、距離が1海里程度まで接近した時点において方位の変化が認められており、12時7分頃までは両船が互いに「無難に替り行くものであること」を看取し得る客観的状況が存在していた。この状況下では、進路が交差する可能性があっても、同条の避譲義務は未だ発生していない。衝突の危険は、その後にE丸が減速し方位の変化が止まったことで新たに惹起されたものであり、その時点以降に避譲義務を負うべきはE丸であると解される。
結論
D丸には海上衝突予防法19条の避譲義務は発生しておらず、衝突の主たる責任は衝突の危険を新たに惹起し、かつ適切な措置を講じなかったE丸にある。
実務上の射程
船舶の衝突事件における過失相殺や不法行為責任を論じる際、避譲義務の発生時期を確定するための準則として用いられる。単なる接近や形式的な進路交差だけでなく、「方位の変化」と「無難に離隔できる可能性の看取」を重視する実務上の枠組みを示している。
事件番号: 昭和32(オ)817 / 裁判年月日: 昭和36年4月28日 / 結論: 棄却
一 裁判官の通常の知識により認識し得べき推定法則は、その認識のためとくに鑑定等の証拠調を要するものではない。 二 互に航路を横切る両船が「衝突ノ虞アル」見合関係にあるとは、当該両船の船長が実際に衝突の危験を認めた関係にあることをさすものではなく、注意深い船長が注意していたとすれば衝突の危険があるものと認むべき関係にある…