一 捕鯨会社間の捕鯨操業規約は、海上衝突予防法に規定する公法上の義務または責任の存否に無関係である。 二 (省略)
一 海上衝突予防法と捕鯨操業規約の関係 二 船舶の衝突について船員に過失がないとするについて審理が十分でないとされた事例
海上衝突予防法(明治25年法律5号),民訴法395条1項6号
判旨
捕鯨操業規約上の権利船であっても、法令上の衝突回避義務は免除されず、他船が規約に反し追尾を継続している状況下では、相手方の避譲を信頼して回避措置を講じないことは過失となり得る。
問題の所在(論点)
不法行為法上の注意義務の判定において、業界内の操業規約上の優先権がある場合、権利船の船長は、義務船が規約を遵守して避譲することを信頼して自らの回避措置を怠っても、直ちに「過失なし」と断定できるか。
規範
私人間の操業規約は公法上の義務を免除するものではなく、船員は衝突のおそれが生じた場合には応急臨機の処置を講ずべき義務(海上衝突予防法29条)を負う。具体的過失の有無の判断において規約を資料とすることは許容されるが、他船が規約に反する行動をとり、衝突の危険がある場合には、相手方の適切な行動を漫然と信頼することは許されず、特段の注意を払うべきである。
重要事実
捕鯨船aの船長である被上告人は、船bより先に鯨を発見したため、操業規約上の「権利船」として優先的追尾権を有していた。しかし、船bも規約に反して鯨を追尾し続け、相互に1000メートルの距離まで接近した。被上告人は「船bが最終的には規約に従って避譲する」と信じ、自ら回避措置をとらなかった結果、両船が衝突した。
事件番号: 昭和32(オ)817 / 裁判年月日: 昭和36年4月28日 / 結論: 棄却
一 裁判官の通常の知識により認識し得べき推定法則は、その認識のためとくに鑑定等の証拠調を要するものではない。 二 互に航路を横切る両船が「衝突ノ虞アル」見合関係にあるとは、当該両船の船長が実際に衝突の危験を認めた関係にあることをさすものではなく、注意深い船長が注意していたとすれば衝突の危険があるものと認むべき関係にある…
あてはめ
被上告人は権利船であったが、1000メートルの距離で船bも追尾中であることを認識しており、船bが権利を主張して譲らない状況であれば、一層の注意を払うべきであった。船員には海上衝突予防法上、衝突回避の応急措置を講じる義務がある。船bの規約違反が衝突の主因であっても、衝突を避ける方法があったにもかかわらず、相手方の避譲を信じて何ら処置を講じなかったことにつき、過失が全くなかったとは断定できない。
結論
被上告人に過失がないとした原判決には法令の解釈適用の誤りがある。船員としての義務を尽くしてもなお衝突が避けられなかったといえるかについて更に審理を尽くすべきである。
実務上の射程
「信頼の原則」の限定を示唆する事案。業界慣行や自主ルールが存在しても、相手方がそれに反する挙動を示しているなどの具体的危険がある場合には、公法上・事務管理上の一般的注意義務が優先され、漫然とした信頼は過失を基礎付ける要素となる。
事件番号: 昭和26(オ)918 / 裁判年月日: 昭和32年2月21日 / 結論: 棄却
一 両船が互に航路を横切る場合において、両船の大少、性能、相互の方位の変化の模様その他原判決の認定する諸般の状況にかんがみれば、両船の距離が一海里乃至四分の三海里に接近した時期において、相互の方位の変化の度合いが一分間に〇・八度程度であつたということだけで、ただちに、両船が海上衝突予防法第一九条にいう「衝突の虞」がある…