高等海難審判庁の海難原因を明らかにする裁決の主文で、海難について過失があるとされた者も、裁決の取消を求める訴を提起することはできない。
高等海難審判庁の海難原因を明らかにする裁決の取消を求める訴の適否。
海難審判法4条,海難審判法53条
判旨
海難審判庁による海難の原因を明らかにする裁決は、特定の者の権利義務に直接関係する効力をもたないため、行政事件訴訟法(特例法)上の「行政庁の処分」に当たらない。
問題の所在(論点)
海難審判法4条に基づく「海難の原因を明らかにする裁決」が、行政事件訴訟特例法(現・行政事件訴訟法3条2項)にいう「行政庁の処分」に該当するか。特に、当該裁決が特定の者の権利義務に直接関係する効力を有するかが問題となる。
規範
行政事件訴訟の対象となる「行政庁の処分」とは、行政庁の行為のうち、国民の権利義務に直接に関係し、法律上の利益を侵害する性質をもつものをいう。海難審判庁の裁決であっても、国民の権利義務に直接関係する効力をもたない行為はこれに該当せず、その取消しを求める訴えを提起することはできない。
重要事実
海難審判法53条に基づき、高等海難審判庁が「本件衝突は被上告人(造船会社)の業務上の過失によって発生した」旨の裁決(原因解明裁決)を行った。これに対し、被上告人が当該裁決の取消しを求めて出訴した。原審は、当該裁決が海難関係の権威者による慎重な手続の下でなされ、民事訴訟等において事実上尊重されることを理由に、本案の訴えを適法としたが、上告人が処分性を争い上告した。
あてはめ
海難原因の解明を目的とする裁決は、被上告人に何らかの義務を課し、または権利行使を妨げるものではなく、過失を確定する法的効力もない。原審が指摘するように他の訴訟で事実上尊重されるとしても、それは単なる一の証拠資料となるに過ぎず、反証を挙げて内容を争うことも、裁判所が裁決と異なる事実認定をすることも妨げられない。また、裁決によって確定されるべき権利関係も存在せず、訴訟を提起しなくとも他の訴訟で裁決内容を争えなくなるものではない。したがって、被上告人の権利義務に直接関係する行為とは認められない。
結論
本件裁決は行政処分に当たらないため、その取消しを求める訴えは不適法であり、却下を免れない。
実務上の射程
行政庁の行為が「証拠資料」としての事実上の影響力を有するに過ぎない場合、処分性が否定されることを示す。事実行為に近い確認的行為の処分性を検討する際のリーディングケースとして活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)1279 / 裁判年月日: 昭和36年4月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】海難審判法に基づき海難の原因を明らかにする裁決は、国民の権利義務に直接影響を及ぼす法的効果を持たないため、行政事件訴訟法上の処分性を欠き、その取消訴訟は不適法である。 第1 事案の概要:上告人らは、海難審判法(旧法)に基づき、発生した海難の原因を明らかにした海難審判所の裁決に対し、その取消を求めて…