地方海難審判庁のした原因解明裁決に対しては、受審人及び指定海難関係人は高等海難審判庁に第二審の請求をすることができない。
地方海難審判庁の原因解明裁決に対する受審人及び指定海難関係人の第二審請求権の有無
海難審判法4条,海難審判法46条
判旨
海難審判における原因解明裁決は一種の事実確認にすぎず、受審人等の権利義務を侵害するものではないため、これに対する第二審の請求は認められない。
問題の所在(論点)
懲戒裁決(法4条2項)や勧告裁決(同3項)がなされず、原因解明裁決(同1項)のみがなされた場合、受審人(法46条1項)又は指定海難関係人は、当該認定事実の是正を求めて第二審の請求をすることができるか。
規範
海難審判法46条1項に基づく第二審の請求権は、通常の行政不服申立と同様、裁決により自己の権利又は法律上の利益を侵害された者の救済を目的とする。原因解明裁決は、海難の原因を明らかにする事実確認にとどまり、受審人等に義務を課し、若しくは権利行使を妨げるものではなく、他の民事・刑事訴訟において不利益事実を確定する効力も有しない。したがって、当該認定に不服があるというだけでは「法律上の利益」があるとはいえず、不服申立の対象とはならない。
重要事実
機船J丸と動力漁舟K丸の衝突事故に関し、地方海難審判庁は、J丸船長(被上告人B1)を受審人、同船甲板手(被上告人B2)を指定海難関係人として審判を行った。その結果、本件衝突はK丸船長の不注意によるが、B2の過失も一因であるとし、B1の所為は原因とならない旨の原因解明裁決がなされた。懲戒裁決や勧告裁決はなされなかったが、B1及びB2は認定事実に不服があるとして第二審の請求を行った。
あてはめ
原因解明裁決は、海難原因を解明して発生防止に寄与するという公益目的(法1条)に基づくものであり、受審人等を関与させるのは懲戒・勧告に際しての弁明機会付与(防禦権保障)にすぎない。本件では、B1及びB2に対し懲戒や勧告といった具体的な不利益処分はなされていない。裁決書中で不利益な事実が認定されたとしても、それは事実上の不利益にとどまり、権利を侵害し又は義務を課す法的効果を伴わない。よって、法律上の利益の侵害は認められない。
結論
原因解明裁決に対し、受審人及び指定海難関係人は第二審の請求をすることができない。
実務上の射程
行政上の不服申立権や訴えの利益における「法律上の不利益」の有無を判断する際の基準として重要。事実確認的な裁決が名誉や社会的評価に影響を与えるとしても、直ちに法的利益の侵害とはならないという限定的な立場を示す。司法試験では「法律上の利益」の定義(処分性・原告適格の議論)との対比で参照される。
事件番号: 昭和42(行ツ)38 / 裁判年月日: 昭和47年4月21日 / 結論: 破棄差戻
一、高等海難審判庁の裁決の取消訴訟において、右裁決における事実の認定は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律八〇条、八一条、電波法九九条のような規定がない以上、事実審たる裁判所を拘束するものではない。 二、約一七ノツトの速力で航行中の甲船(総トン数九五四七トン)と約八・五ノツトの速力で航行中の乙船(総トン数二三…