矯正管区長が、刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のもの)45条1項所定の保有個人情報に当たるとの見解に立脚し、その全部を開示しない旨の決定をした場合において、上記決定当時、公表されていた裁判例や情報公開・個人情報保護審査会の答申はいずれも上記見解を採っていたことがうかがわれるなど判示の事情の下では、上記決定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。
刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報の全部を開示しない旨の決定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとされた事例
国家賠償法1条1項、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のもの)45条1項
判旨
行政機関の長等が行った処分に法令解釈の誤りがあったとしても、直ちに国家賠償法上の違法となるわけではなく、職務上の注意義務を尽くさず漫然と判断したといえる事情がある場合に限り違法となる。本件では、当時の裁判例や答申が処分の拠り所となった解釈を支持しており、当該解釈に相当の根拠があったため、注意義務違反は認められない。
問題の所在(論点)
行政機関が法令の解釈を誤って不利益処分(不開示決定)を行った場合、当該処分は国家賠償法1条1項の適用上、直ちに違法と評価されるか。また、処分の根拠となった法令解釈に相当の根拠がある場合の注意義務違反の有無が問題となる。
規範
行政機関の長等が法令の解釈を誤って不開示決定等の処分をした場合であっても、直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではない。当該公務員が、当該処分をする上において職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情がある場合に限り、同項の適用上違法となる。判断にあたっては、当時の裁判例、審査会の答申、文献等の状況に加え、当該解釈の文理上の可能性や制度趣旨との整合性などの客観的根拠の有無を考慮する。
事件番号: 令和2(行ヒ)102 / 裁判年月日: 令和3年6月15日 / 結論: 破棄差戻
刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項所定の保有個人情報に当たらない。 (補足意見がある。)
重要事実
東京拘置所の未決拘禁者であったXが、収容中の診療録(本件情報)の開示を求めた。東京矯正管区長は、当時の行政機関個人情報保護法45条1項(刑事事件等に係る保有個人情報の適用除外)に本件情報が該当すると解釈し、不開示決定をした。後に最高裁(第一次上告審)で、診療情報は同項の除外対象に当たらないと判断され、不開示決定の違法が確定した。これを受けXが、解釈を誤った不開示決定は国家賠償法上も違法であるとして損害賠償を求めた。
あてはめ
本件決定当時、公表されていた裁判例や情報公開・個人情報保護審査会の答申は、いずれも被収容者診療情報が適用除外に当たるとの見解を採っていた。また、これと異なる解釈を示す文献も存在しなかった。診療情報が刑事事件の執行等に付随する作用に関するものとみる余地は否定できず、文理上も不合理とはいえない。また、前科等の流出防止という制度趣旨に照らしても相当の根拠があったといえる。したがって、東京矯正管区長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したとは認められない。
結論
本件決定には国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。したがって、Xの損害賠償請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
行政処分の取消訴訟における「違法」と、国家賠償請求における「違法」が別概念であることを前提とした、職務義務違反の判断枠組み(いわゆる職務義務違背説)を再確認したものである。公務員の法令誤認が国賠法上の違法となるか否かは、当時の裁判例や学説等の状況から、その解釈に「相当の根拠」があったかという観点で論じる必要がある。答案では、単なる処分取消事由の存在だけでなく、過失(注意義務違反)の有無と密接に関連させて違法性を論じる際に活用する。
事件番号: 令和6(行ヒ)94 / 裁判年月日: 令和7年6月6日 / 結論: 破棄差戻
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事件番号: 令和2(行ヒ)340 / 裁判年月日: 令和4年5月17日 / 結論: その他
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事件番号: 平成29(行ヒ)46 / 裁判年月日: 平成30年1月19日 / 結論: その他
1 内閣官房報償費の支出に関する報償費支払明細書に記録された調査情報対策費及び活動関係費の各支払年月日,支払金額等を示す情報は,これが明らかになると,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,内閣官房において対応するものと推測される重要な出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,これらに関する情報との照合や分析等…
事件番号: 平成9(行ツ)241 / 裁判年月日: 平成13年11月27日 / 結論: 棄却
学校法人が栃木県に提出した前年度収支計算書のうち資金収支計算書及び消費収支計算書における各決算欄の大科目部分並びに貸借対照表における本年度末欄,前年度末欄及び増減欄の各大科目部分に記載された情報は,その分析によって当該法人の競争上の地位を害するような独自の経営上のノウハウ等を看取することが困難であり,その内容が客観的に…