マンションの建築工事の請負人が、上記工事全体の99%を超える出来高の工事を行ったが、上記工事に係る請負契約で定められた支払時期に支払われるべき請負代金の一部の支払を受けるにとどまったため、自ら上記マンションを分譲販売する方法によって上記代金に係る債権の回収を図ることとしていた場合において、次の⑴、⑵の事情の下では、第三者において注文者から上記マンションの敷地を譲り受けた行為は、上記方法によって上記債権を回収するという請負人の利益を侵害するものとして上記債権を違法に侵害する行為に当たるということはできない。 ⑴ 上記の譲受行為の当時、上記敷地については注文者が所有しており、また、請負人において、将来、上記敷地の所有権その他の敷地利用権を取得する見込みがあったという事情もうかがわれない。 ⑵ 注文者は、上記譲受行為の当時、請負人に対し、その意向とは異なり、上記マンションの引渡しを受けて自らこれを分譲販売することを要望していた。 (反対意見がある。)
マンションの建築工事の注文者から上記マンションの敷地を譲り受けた行為が請負人の注文者に対する請負代金債権を違法に侵害する行為に当たらないとされた事例
民法709条
判旨
請負人が注文者所有の敷地上に建設したマンションを自ら分譲販売して代金を回収しようとする利益は、注文者の協力が困難な状況下では単なる主観的な期待にすぎず、第三者による敷地譲受行為が当該債権を違法に侵害する不法行為を構成することはない。
問題の所在(論点)
債権者が、債務者所有の不動産を利用して債権回収を企図していた場合において、第三者が当該不動産を譲り受ける行為が、債権者の「法律上保護される利益」を侵害する不法行為(民法709条)に当たるか。
規範
債権は債務者の行為を目的とするものであり、第三者が債務者から目的物を譲り受ける等の行為により結果的に債権回収が困難になったとしても、直ちに不法行為(民法709条)を構成するものではない。当該債権回収の利益が「法律上保護される利益」といえるためには、単なる主観的な期待ではなく、客観的にその実現が確実といえる状況にあることを要する。
重要事実
請負人Xは、注文者Aからマンション建築を請け負ったが、代金の大部分が未払となった。Xは工事を99%完了させた時点で中止し、建物を占有して自ら分譲販売することで債権回収を図る方針を立てた。しかし、敷地はAの所有であり、AはXによる分譲に反対して自らの一棟売却を希望するなど、両者の協力関係は破綻していた。その後、第三者YがAから敷地を無償で譲り受けた(本件行為)ため、Xは「債権回収の利益」を侵害されたとしてYに対し不法行為に基づき損害賠償を請求した。
あてはめ
Xが敷地利用権付きでマンションを分譲販売するためには、敷地所有者であるAの協力が不可欠である。しかし、本件行為当時、AはXによる販売に反対し、自ら一棟売りを要望するなど協力が困難な状況にあった。また、Xが将来的に敷地所有権や利用権を取得する客観的な見込みがあったという事情もうかがわれない。したがって、Xが自ら分譲販売する方法で債権回収を図るという利益は、客観的裏付けを欠く「単なる主観的な期待」にとどまる。ゆえに、Yによる敷地の譲受行為が、Xの法的保護に値する利益を侵害したとは認められない。
結論
本件行為はXの法的保護に値する利益を侵害するものとはいえず、不法行為は成立しない。Xの請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
債権侵害を理由とする不法行為の成否において、単なる「期待」と「法的保護に値する利益」を厳格に区別した事例である。特に、債務者の協力が不可欠な回収スキームにおいては、その協力の蓋然性が低い限り、第三者が回収を妨げるような行動をとっても違法性が否定されやすい。答案上は、侵害された利益の特定とその客観的確実性を具体的事実(協力の有無や権利取得の見込み)から検討する際の指針となる。
事件番号: 昭和51(オ)900 / 裁判年月日: 昭和52年3月25日 / 結論: 棄却
甲が乙の営業を手伝つていたなど判示の事情のもとで、甲が乙の営業権を侵害したとして損害賠償義務を負う場合、右賠償額を算定するには甲乙各自の営業に対する寄与度を参酌することができる。