金属工作機械部分品の製造等を業とするX会社を退職後の競業避止義務に関する特約等の定めなく退職した従業員において,別会社を事業主体として,X会社と同種の事業を営み,その取引先から継続的に仕事を受注した行為は,それが上記取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用して行われたものであり,上記取引先に対する売上高が別会社の売上高の8〜9割を占めるようになり,X会社における上記取引先からの受注額が減少したとしても,次の(1),(2)など判示の事情の下では,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものではなく,X会社に対する不法行為に当たらない。 (1) 上記従業員は,X会社の営業秘密に係る情報を用いたり,その信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったものではない。 (2) 上記取引先のうち3社との取引は退職から5か月ほど経過した後に始まったものであり,残りの1社についてはX会社が営業に消極的な面もあったのであって,X会社と上記取引先との自由な取引が阻害された事情はうかがわれず,上記従業員においてその退職直後にX会社の営業が弱体化した状況を殊更利用したともいえない。
金属工作機械部分品の製造等を業とするX会社を退職後の競業避止義務に関する特約等の定めなく退職した従業員において,別会社を事業主体として,X会社と同種の事業を営み,その取引先から継続的に仕事を受注した行為が,X会社に対する不法行為に当たらないとされた事例
民法709条
判旨
特約のない退職従業員による競業行為は、単なる人的関係の利用や黙秘を超え、営業秘密の不正利用や信用毀損等の不当な方法を用いない限り、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した不法行為とはいえない。
問題の所在(論点)
退職後の競業避止義務に関する特約がない場合において、元従業員による顧客奪取行為が不法行為(民法709条)または信義則上の競業避止義務違反となるか。
規範
退職後の競業行為は、原則として自由であるが、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元雇用者の顧客を奪取したとみられる場合には、不法行為(民法709条)を構成する。具体的には、①営業秘密に係る情報の使用、②元雇用者の信用の毀損、③退職直後の弱体化の殊更な利用などの「不当な方法」の有無を総合的に考慮して判断する。なお、退職者は競業行為を元勤務先に開示する義務を当然に負うものではない。
重要事実
精密機械製造業の被上告人の元従業員Y1(営業担当)及びY2(現場担当)は、競業避止義務の特約なく退職した。Yらは、Y1が担当していた主要顧客に対し、退職挨拶の際に独立後の受注希望を伝えた。独立後、Yらは休眠会社(上告人会社)の代表取締役就任登記を数ヶ月遅らせ、被上告人に告げずに競業を開始した。その結果、被上告人の主要顧客との取引を奪い、上告人会社の売上の8〜9割が当該顧客との取引によるものとなったが、被上告人側も遠方顧客への営業に消極的であった等の事情があった。
あてはめ
Y1は人的関係を利用したに過ぎず、営業秘密の使用や信用毀損といった不当な方法は認められない。取引開始時期も一部は退職5ヶ月後であり、被上告人の消極的な営業姿勢に鑑みれば、自由な取引が阻害されたとはいえない。また、登記の遅延や競業の不告知は、法的な「隠ぺい工作」や開示義務違反には当たらない。したがって、元勤務先の営業弱体化を殊更利用したともいえず、社会通念上自由競争の範囲を逸脱したとは評価できない。
結論
本件競業行為は不法行為に当たらず、また信義則上の競業避止義務違反も認められないため、損害賠償請求は棄却される。
実務上の射程
特約がない場合の競業行為の違法性判断基準(自由競争範囲逸脱説)を明示した重要判例。答案では、まず特約の有無を確認し、特約がない場合は本判例を引用して「不当な方法」の有無から違法性を検討する。単なる顧客奪取や売上減だけでは不十分であり、背信性を基礎付ける具体的態様の摘示が不可欠となる。
事件番号: 平成21(受)1780 / 裁判年月日: 平成22年3月30日 / 結論: 破棄自判
貸金業を営む株式会社の従業員が会社の貸金の原資に充てると欺罔して第三者から金員を詐取した行為が会社の事業の執行についてされたものであるというためには,貸金の原資の調達が使用者である会社の事業の範囲に属するというだけでなく,これが客観的,外形的にみて,被用者である当該従業員が担当する職務の範囲に属するものでなければならな…