被告人が、個人として免許を受けないで宅地建物取引業を営んだという訴因と、法人の代表者として法人の業務に関し免許を受けないで宅地建物取引業を営んだという訴因とは、個人として宅地建物取引業を営んだのか、法人の業務に関し法人の代表者としてこれを営んだのかに違いがあるとしても、被告人を行為者とした同一の建物賃貸借契約を媒介する行為を内容とするものであって、公訴事実の同一性を失わない。
個人として免許を受けないで宅地建物取引業を営んだという訴因と、法人の代表者として法人の業務に関し免許を受けないで宅地建物取引業を営んだという訴因との間に公訴事実の同一性が認められた事例
刑訴法312条1項、宅地建物取引業法12条1項、宅地建物取引業法79条2号、宅地建物取引業法84条1号
判旨
被告人が個人として宅建業を営んだとする当初訴因と、法人の代表者として同業務を営んだとする変更後訴因は、行為主体としての被告人や対象行為が共通し、両立し得ない関係にあるため、公訴事実の同一性が認められる。
問題の所在(論点)
被告人が「個人」として行為したとする当初訴因と、「法人の代表者」として行為したとする変更後訴因との間に、公訴事実の同一性が認められるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、両訴因の基本的事実関係が同一であるか否かによって決せられる。具体的には、訴因間の事実の共通性や、両者が非両立の関係にあるかといった観点から判断すべきである。
重要事実
被告人が免許を受けずに建物賃貸借契約の媒介を業として行ったという宅地建物取引業法違反の事案。当初の起訴状(訴因)では「被告人が(個人として)」無免許で営業したとされていたが、検察官は第1審において「被告人が株式会社Aの代表取締役として、同会社の業務に関し」無免許で営業したとする訴因変更を請求し、裁判所がこれを許可した。
事件番号: 平成16(あ)1065 / 裁判年月日: 平成16年12月10日 / 結論: 棄却
民事執行法上の競売手続により宅地又は建物を買い受ける行為は,宅地建物取引業法2条2号にいう宅地又は建物の「売買」に当たる。
あてはめ
両訴因を比較すると、被告人が個人として宅地建物取引業を営んだのか、あるいは法人の代表者として営んだのかという点に相違はある。しかし、いずれも「被告人を行為者とした同一の建物賃貸借契約を媒介する行為」を内容とする点において、事実に共通性がある。また、同一の行為について個人としての活動か法人代表者としての活動かは排他的であり、両者は両立しない関係にある。したがって、本件の両訴因は基本的事実関係において同一であるといえる。
結論
両訴因の間には公訴事実の同一性が認められるため、訴因変更を許可した第1審の判断およびそれを維持した原判決に法令違反はない。
実務上の射程
訴因変更における「公訴事実の同一性」の判断基準として、単一性と同一性のうち「同一性(基本的事実関係の同一性)」が問題となる典型例。行為の主体的な法的属性(個人か法人代表者か)が異なっても、実行行為自体が共通し非両立であれば同一性を肯定できることを示しており、答案上は事実の共通性と非両立性を摘示する際の有力な論拠となる。
事件番号: 昭和58(あ)287 / 裁判年月日: 昭和60年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法人の代表取締役が、法人の業務に関し法人の名義で他人に宅地建物取引業を営ませた場合、両罰規定に基づき、当該代表取締役を処罰規定の直接の「行為者」として処罰すべきである。 第1 事案の概要:A株式会社の代表取締役である被告人は、同社の業務に関し、同社の名義を用いて他人に宅地建物取引業を営ませた。これ…
事件番号: 昭和48(あ)970 / 裁判年月日: 昭和49年12月16日 / 結論: 棄却
宅地建物取引業法(昭和四六年法律第一一〇号による改正前のもの)一二条一項にいう「宅地建物取引業を営む」とは、営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅地建物取引業法二条二号所定の行為をなすことをいう。
事件番号: 昭和60(あ)1255 / 裁判年月日: 昭和60年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法人の代表者が法人の業務に関し宅地建物取引業法違反の行為をした場合、両罰規定である同法84条により、当該代表者は同法80条の罪の行為者として処罰される。 第1 事案の概要:宅地建物取引業者であるA株式会社の代表取締役である被告人は、同社の業務に関して、宅地建物取引業法47条1号に規定される重要事項…
事件番号: 昭和55(あ)1803 / 裁判年月日: 昭和57年9月9日 / 結論: 破棄差戻
宅地建物取引業法一三条一項、七九条三号は、自己の名義をもつて他人に宅地建物取引業を営ませる行為につき、その相手方が右取引業を営む免許を受けていると否とにかかわりなく、一律にこれを禁止、処罰する趣旨である。