自動車教習所の教習指導員の業務に従事する無期契約労働者と定年退職後に再雇用され同業務に従事する有期契約労働者との間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、上記無期契約労働者の基本給につき一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったなどとするにとどまり、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、上記相違の一部が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。
無期契約労働者と有期契約労働者との間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違の一部が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例
労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条
判旨
定年後再雇用された有期契約労働者と無期契約労働者との間の基本給及び賞与の格差が労働契約法20条にいう不合理な相違に当たるかは、当該基本給等の性質や支給目的を検討し、かつ労使交渉の具体的な経緯等の諸事情を適切に考慮して判断すべきである。
問題の所在(論点)
定年後再雇用された有期契約労働者と無期契約労働者との間における、基本給及び賞与の額の相違が、旧労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たるか。
規範
労働契約法20条(平成30年改正前)にいう不合理な相違の該当性は、基本給や賞与であっても、当該使用者における当該賃金項目の性質や支給目的を確定した上で、同条所定の諸事情を考慮して判断すべきである。また、同条の「その他の事情」として労使交渉を考慮するに当たっては、合意の有無といった結果のみならず、要求に対する回答や労働組合の反応といった具体的な経緯をも勘案すべきである。
重要事実
自動車教習所の正職員(無期雇用)として勤務し定年退職した原告らが、嘱託職員(有期雇用)として再雇用された際、業務内容や責任に特段の相違がないにもかかわらず、基本給が定年時の60%を下回り、賞与も大幅に削減された。正職員の基本給には勤続給・職務給・職能給等の複合的性質が想定され、嘱託職員は役職に就かない等の前提があった。原審は、性質の検討を欠いたまま、一律に定年時の60%を下回る部分を不合理と判断した。
あてはめ
正職員の基本給は勤続年数に応じた増額があり年功的性格を有する一方、職務給や職能給の性質も併せ持つ可能性があり、支給目的が確定されていない。また、嘱託職員の基本給は異なる基準で支給され、その性質・目的も検討が必要である。さらに、原告らと会社との間で賃金条件の見直しに関する労使交渉が行われていたにもかかわらず、原審はその具体的な交渉経緯(回答の内容や組合の反応等)を十分に評価していない。
結論
基本給及び賞与の性質・目的の確定を欠き、労使交渉の具体的経緯を適切に考慮せずに、一定の数値基準(60%)をもって直ちに不合理とした原審の判断には、法20条の解釈適用の誤りがある。
実務上の射程
定年後再雇用の賃金格差訴訟において、「基本給」「賞与」といった主要な賃金項目についても、長澤運輸事件等の枠組みを維持しつつ、一律の割合(60%ライン等)で判断せず、各社の賃金体系の性質や具体的交渉過程を個別詳細に検討すべきことを求めた点に実務上の意義がある。
事件番号: 平成29(受)442 / 裁判年月日: 平成30年6月1日 / 結論: その他
1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。 2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労…