1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。 2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。 3 乗務員である無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で,定年退職後に再雇用された乗務員である有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,両者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合であっても,次の⑴~⑹など判示の事情の下においては,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。 ⑴ 有期契約労働者に支給される基本賃金の額は,当該有期契約労働者の定年退職時における基本給の額を上回っている。 ⑵ 有期契約労働者に支給される歩合給及び無期契約労働者に支給される能率給の額は,いずれもその乗務するバラセメントタンク車の種類に応じた係数を月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ,歩合給に係る係数は,能率給に係る係数の約2倍から約3倍に設定されている。 ⑶ 団体交渉を経て,有期契約労働者の基本賃金が増額され,歩合給に係る係数の一部が有期契約労働者に有利に変更されている。 ⑷ 有期契約労働者の賃金体系は,乗務するバラセメントタンク車の種類に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに,前記⑴により収入の安定に配慮するとともに,前記⑵により労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されたものである。 ⑸ 有期契約労働者に支給された基本賃金及び歩合給を合計した金額並びに当該有期契約労働者の賃金に関する労働条件が無期契約労働者と同じであるとした場合に支払われることとなる基本給,能率給及び職務給を合計した金額を計算すると,前者の金額は後者の金額より少ないが,その差は約2%から約12%にとどまる。 ⑹ 有期契約労働者は,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上,その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,調整給の支給を受けることができる。
1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることと労働契約法20条にいう「その他の事情」 2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについての判断の方法 3 無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で定年退職後に再雇用された有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
労働契約法20条
判旨
定年後再雇用された有期契約労働者と正社員との間の労働条件の相違について、労働契約法20条(当時)の「不合理」性の判断は、個々の賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきであり、皆勤を奨励する趣旨の「精勤手当」を支給しないことは不合理である。
問題の所在(論点)
定年後再雇用された有期契約労働者と正社員との間で、精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与等の支給の有無、および能率給・職務給と歩合給の体系の相違があることが、労働契約法20条(当時)にいう「不合理」な労働条件の相違にあたるか。
規範
1. 労働契約法20条(当時)にいう「不合理と認められるもの」とは、有期・無期労働者間の労働条件の相違が不合理であると評価できることをいい、職務内容、変更範囲、その他の事情を考慮して判断する。 2. 「その他の事情」には、有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることも含まれる。 3. 不合理性の判断にあたっては、賃金総額の比較のみならず、個々の賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。
重要事実
1. 被上告人(会社)は、定年退職後に再雇用された有期契約労働者(嘱託乗務員)に対し、正社員に支給される精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与等を支給せず、能率給・職務給に代えて歩合給を支給していた。 2. 嘱託乗務員と正社員の「職務の内容」および「変更範囲」は同一であった。 3. 被上告人は労使交渉を経て、嘱託乗務員の基本賃金増額や調整給の支給等の配慮を行っていた。 4. 精勤手当は、休日以外の全日出勤を奨励する趣旨で月額5000円が支給されていた。
あてはめ
1. 精勤手当について:その趣旨は皆勤の奨励にある。嘱託乗務員と正社員の職務内容が同一である以上、皆勤を奨励する必要性に相違はなく、これを支給しないことは不合理である。 2. 住宅・家族手当について:福利厚生・生活保障の趣旨であり、幅広い世代の正社員に対し支給する相応の理由がある。他方、嘱託乗務員は定年退職者として年金受給等が予定されており、支給しないことも不合理ではない。 3. 賞与・その他項目について:定年後再雇用の事情、年収が定年時の約79%確保されていること、労使交渉の経緯、賃金体系の工夫(歩合給設定等)を総合考慮すれば、不合理とまではいえない。 4. 超勤手当について:計算基礎に不合理とされる精勤手当が含まれない点において、同様に不合理である。
結論
精勤手当およびこれを含む超勤手当の差異については不合理であり、不法行為に基づき損害賠償請求を認める。その余の手当・賞与等の差異については不合理とはいえず、請求を棄却する。
実務上の射程
同一労働同一賃金(現行パートタイム・有期雇用労働法8条)の解釈指針となり、「長澤運輸事件」として、定年再雇用特有の事情を考慮しつつも、手当の性質に応じた個別判断の重要性を示した。
事件番号: 令和1(受)794 / 裁判年月日: 令和2年10月15日 / 結論: その他
1 郵便の業務を担当する無期契約労働者に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,郵便の業務を担当する月給制契約社員又は時給制契約社員である有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,両者の間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があることを考慮しても,次の(1),…