私立大学の教室事務を担当する無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で,同事務を担当する時給制のアルバイト職員である有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,次の(1)~(5)など判示の事情の下においては,労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらない。 (1) 上記大学を運営する学校法人の無期契約労働者に対する賞与は,基本給とは別に支給される一時金として,財務状況等を踏まえつつ,その都度,支給の有無や支給基準が決定されるものであり,労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものとして,無期契約労働者としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給することとされたものである。 (2) 上記教室事務を担当する無期契約労働者とアルバイト職員の業務の内容は共通する部分はあるものの,上記無期契約労働者は,学内の英文学術誌の編集事務等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があり,両者の職務の内容に一定の相違があった。 (3) 上記教室事務を担当する無期契約労働者は就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員の人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われており,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があった。 (4) 上記学校法人においては,全ての無期契約労働者が同一の雇用管理の区分に属するものとして同一の就業規則等の適用を受けているところ,教室事務を担当する職員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったために一部を除いてアルバイト職員に置き換えてきた結果,教室事務を担当する無期契約労働者は,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人事異動も行われていた他の大多数の無期契約労働者と比較して極めて少数となっていた。 (5) 上記学校法人には,アルバイト職員について,無期契約労働者へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていた。
無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条
判旨
有期契約労働者と無期契約労働者との間の賞与及び私傷病欠勤中の賃金の有無という労働条件の相違は、正職員としての職務遂行能力を有する人材の確保や定着、長期雇用維持という支給目的等に照らせば、旧労働契約法20条にいう不合理な相違には当たらない。
問題の所在(論点)
有期労働契約を締結したアルバイト職員と、無期労働契約の正職員との間で、(1)賞与、(2)私傷病による欠勤中の賃金を、前者に一切支給しないという労働条件の相違が、旧労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たるか。
規範
労働条件の相違が不合理か否かは、当該使用者における当該労働条件の性質及び支給目的に照らし、職務内容(業務内容・責任程度)、変更の範囲(配置転換の範囲)、その他の事情を考慮して判断する。賞与については、労務対価の後払いや功労報償、将来の労働意欲向上等の趣旨を含み、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保や定着を目的とする場合、その有無の相違は直ちに不合理とはいえない。私傷病欠勤中の賃金についても、長期雇用を前提とした雇用維持・確保を目的とする場合、同様の判断枠組みが妥当する。
重要事実
学校法人(被告)でアルバイト職員として勤務していた原告(有期契約)が、正職員(無期契約)にのみ支給される賞与及び私傷病による欠勤中の賃金(休職給等)が自身に支給されないのは不合理であるとして、旧労働契約法20条に基づき損害賠償を請求した。原告の業務は定型的・簡便な事務が中心で、配置転換も原則ない。対して正職員は多岐にわたる業務に従事し、人事異動の対象でもあった。被告にはアルバイトから正職員への登用制度も存在した。
あてはめ
(1)賞与:性質は労務対価の後払い・功労報償・意欲向上等であり、目的は正職員の確保・定着にある。正職員は高度な業務や人事異動を伴うのに対し、原告の業務は相当に簡易で、変更の範囲にも差異がある。登用制度の存在も考慮すれば、支給の有無に相違があることは不合理とまで評価できない。(2)欠勤中賃金:目的は長期雇用を前提とした生活保障及び雇用維持にある。原告は契約期間1年以内で長期雇用が前提とは言い難く、勤続期間も約3年と長期間ではない。制度趣旨が直ちに妥当するとはいえず、相違は不合理ではない。
結論
賞与及び私傷病欠勤中の賃金の有無に係る労働条件の相違は、いずれも旧労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。
実務上の射程
賞与や私傷病手当といった「基本給以外」の待遇差について、その支給目的(長期雇用の期待や人材確保等)を重視して不合理性を否定した事例である。特に、正職員への登用制度の存在が「その他の事情」として有利に考慮される点や、金額の多寡だけでなく「支給の趣旨」との整合性が重視される点は、実務上の重要な判断指標となる。
事件番号: 令和1(受)794 / 裁判年月日: 令和2年10月15日 / 結論: その他
1 郵便の業務を担当する無期契約労働者に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,郵便の業務を担当する月給制契約社員又は時給制契約社員である有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,両者の間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があることを考慮しても,次の(1),…