1 刑法190条にいう「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為をいう。 2 被告人の居室で、出産し、死亡後間もないえい児の死体をタオルに包んで段ボール箱に入れ、同段ボール箱を棚の上に置くなどして、他者が死体を発見することが困難な状況を作出したという被告人の隠匿行為は、それが行われた場所、死体のこん包及び設置の方法等に照らすと、刑法190条にいう「遺棄」に当たらない。
1 刑法190条にいう「遺棄」の意義 2 死亡後間もないえい児の死体を隠匿した行為が刑法190条にいう「遺棄」に当たらないとされた事例
(1、2につき)刑法190条
判旨
刑法190条の「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し、または隠匿することをいい、単に他者が発見困難な状況を作出するだけでは足りない。出産直後の死体をタオルに包んで段ボール箱に入れ自室の棚に置く行為は、その態様自体が習俗上の埋葬等と相いれない処置とはいえず、「遺棄」に当たらない。
問題の所在(論点)
死体を段ボール箱に入れて自室内に置く隠匿行為が、刑法190条の「遺棄」に該当するか。
規範
刑法190条の保護法益は、死者に対する一般的な宗教的・敬虔感情である。したがって、「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄または隠匿する行為をいう。隠匿行為が「遺棄」に当たるか否かは、葬祭の準備・過程か否かという観点だけでなく、その態様自体が習俗上の埋葬等と相いれない処置といえるか否かという観点から判断すべきである。
重要事実
技能実習生である被告人は、自室でえい児2名を出産したが、いずれも直後に死亡した。被告人は死体をタオルで包んで段ボール箱に入れ、おわび等の言葉を書いた手紙を同封して接着テープで封をした上で、別の段ボール箱に入れて自室の棚の上に置いた。翌日、被告人は医師に「埋めた」旨を話し、捜索により死体が発見された。
事件番号: 昭和24(れ)1986 / 裁判年月日: 昭和24年11月26日 / 結論: 棄却
一 論旨は被告人の所爲は殺意を以て行われたと認むべき證明がないから傷害致死罪を以て處斷すべきものであるというのである。しかし原刑決は被告人の殺意の點を「凶器の種類、攻撃の個所、回數並びに傷害の部位程度に徴し」て認定しているのである。然らば原判決がこの證據と原判示他の證據とを綜合して判示事實が刑法一九九條殺人罪に該當する…
あてはめ
被告人の行為は、死体を隠匿し他者が発見することを困難にするものである。しかし、場所が自己の居室であること、タオルで包み手紙を添えるなど一定の丁寧さをもって梱包されていること、棚の上に置くという設置方法等を考慮すれば、その態様自体が直ちに習俗上の埋葬等と相いれない処置とは認められない。したがって、客観的に「遺棄」の態様にあるとは評価できない。
結論
被告人の行為は「遺棄」に該当せず、死体遺棄罪は成立しない。無罪。
実務上の射程
死体遺棄罪における「遺棄」の意義を、単なる発見困難性の作出ではなく「習俗上の埋葬等との相容れなさ」という客観的な態様に求めた重要な判例。答案上では、隠匿行為の具体的態様(場所、梱包方法、死者への敬意の有無等)を詳細に検討し、それが社会通念上の埋葬から著しく逸脱しているかを論じる必要がある。
事件番号: 昭和26(あ)3639 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当な手段により作成された疑いのある供述調書であっても、裁判所がこれを判決の証拠として採用していない以上、判決に影響を及ぼす違法があるとは認められない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、司法警察員作成の被告人の供述調書が拷問によって作成されたものであると主張し、その証拠採用を違憲・違法として上…