一 論旨は被告人の所爲は殺意を以て行われたと認むべき證明がないから傷害致死罪を以て處斷すべきものであるというのである。しかし原刑決は被告人の殺意の點を「凶器の種類、攻撃の個所、回數並びに傷害の部位程度に徴し」て認定しているのである。然らば原判決がこの證據と原判示他の證據とを綜合して判示事實が刑法一九九條殺人罪に該當するものと處斷したことは正當である。 二 人を殺した者がその殺した死体を屋内床下に運び之を隠匿した本件被告人の所爲は正に刑法第一九〇條所定の死体を遺棄した行爲に該當するものである。被告人が合掌したり、死者の冥福を祈つたりしこと又は右死体がその監視内にあつたことは本件犯罪構成要素とは關係がないものである。 三 裁判所は自首減輕の必要がないと認めたときは、たとえ自首の事實があつたとしても特にその理由を判示する必要はないのである。
一 殺人の犯意を否認している場合に「凶器の種類攻撃の個所」等の證據と他の證據とを綜合して殺人罪を認定した事例 二 犯人がその殺した死体を屋内床下に運び隠匿した所爲と死体遺棄罪の成否 三 自首の事實を判決の理由に判示することの要否
刑法199條,刑法190條,刑法42條1項,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法336條,舊刑訴法360條2項
判旨
死体遺棄罪(刑法190条)の成否につき、殺害後の死体を屋内床下に運び隠匿する行為は同罪を構成し、合掌等の供養や死体が監視下にある事実は犯罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
死体を屋内の床下に隠匿する行為が「遺棄」にあたるか。また、死者に対する供養の挙動や監視の継続が、死体遺棄罪の成否に影響を及ぼすか。
規範
刑法190条の「遺棄」とは、死体を移動させて隠匿する行為を指す。犯人が死体に対して合掌し、冥福を祈る等の主観的態様や、移動後の死体が犯人の監視下にあるという事実は、死体遺棄罪の構成要件の充足を左右するものではない。
重要事実
被告人は、殺意をもって被害者を殺害した。その後、被害者の死体を屋内の床下へと運び、そこに隠匿した。被告人側は、死体に対して合掌し冥福を祈っていたこと、および死体が依然として自己の監視内にあったことを理由に、死体遺棄罪の犯意や成立を否定して争った。
あてはめ
本件被告人は、人を殺害した後にその死体を屋内の床下という通常発見されにくい場所へ運び、隠匿している。この移動および隠匿の事実は、死体遺棄罪における客観的行為および犯意を基礎付ける。被告人が主張する合掌や冥福の祈りといった主観的な敬虔の情の現れは、社会的風教を保護する本罪の成立を否定する理由にはならない。また、隠匿場所が自己の監視内であったとしても、死体を公衆から隠して場所的移動を伴う隠匿を行った以上、遺棄に該当すると評価される。
結論
被告人の所為は刑法190条の死体遺棄罪に該当する。また、殺意の認定(刑法199条)についても、凶器の種類や攻撃部位等の客観的事実から肯定される。
実務上の射程
死体遺棄罪における「遺棄」の意義(作為による遺棄)を明確にした判例である。場所的移動を伴う隠匿がある場合、犯人の主観的な供養の意図や、物理的な支配(監視)の継続といった事情は、犯罪の成否を妨げるものではないことを示している。実務上は、殺害後の隠匿行為を死体遺棄罪として構成する際の論拠として用いる。
事件番号: 昭和26(れ)426 / 裁判年月日: 昭和26年6月7日 / 結論: 棄却
旅館の客室で人を殺した者がその死体を右客室の床下に投棄秘匿する場合には、殺人罪の外に死体遺棄罪が成立する。