「被告人は土蔵のそばに忍び寄つたAを、長男B、次男Cと共に竹棒で殴打して組み伏せ、荷縄で手足を縛り上げたのち、Bと共謀し、Aを殺害して後難と将来の煩累とを除こうと決意し、BをしてAの頸部を絞扼させて窒息死に至らせた」という被告人らが、すでに被害者を縛り上げ何等危険もなくなつた後において殺害するに至つた行為は被告人らの生命、身体に対する「現在の危険」を排除するためであるとは到底いえないから、所論盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第一条第一項に該当しないこと明白である。そして同条第二項は「前項各号の場合に於て」云々と規定しているのであり、被告人等の右行為は同項第一項各号のいずれかの場合において行われたものであるとはいえないのであつて、従つてこれについては同条第二項の適用もないわけである。
被害者の手足を縛り上げ現在の危険がなくなつた後において殺害した行為と「強犯等の防止及処分に関する法律」第一条第二項の適用
盗犯等の防止及処分に関する法律1条1項,盗犯等の防止及処分に関する法律1条2項
判旨
盗犯等防止法1条1項各号に規定される急迫不正の侵害に対する防衛行為といえるためには、生命や身体等に対する現在の危険を排除するための行為であることを要する。被害者を制圧し危険がなくなった後に行われた殺害行為については、同条2項の過剰防衛の適用も否定される。
問題の所在(論点)
被害者を縛り上げ、生命・身体に対する現在の危険がなくなった後に行われた殺害行為について、盗犯等防止法1条1項の防衛行為、および同条2項の過剰防衛が成立するか。
規範
盗犯等防止法1条1項の「自ら其の生命、身体又は貞操に対する現在の危険を排除せんと」する行為にあたるためには、客観的に侵害の危険が継続していることが必要である。また、同条2項の過剰防衛の規定は、同条1項各号に掲げる状況下で行われた行為であることを前提とするため、侵害が終了し危険が消失した後の行為には適用されない。
重要事実
被告人は、土蔵のそばに忍び寄った被害者を、息子らと共に竹棒で殴打して組み伏せ、荷縄で手足を縛り上げた。その後、被告人は息子と共謀し、被害者を殺害して後難を除こうと決意し、息子に命じて被害者の頸部を絞めさせ窒息死させた。弁護人は、この行為が盗犯等防止法1条にいう正当防衛または過剰防衛に該当すると主張した。
あてはめ
被告人らは被害者を縛り上げており、その時点で被告人らの生命や身体に対する「現在の危険」は消滅していたといえる。したがって、その後の殺害行為は危険排除のための行為とは認められず、同条1項各号(盗犯防止、侵入者防止、排斥)のいずれの場合にも該当しない。前提となる1項の状況が存在しない以上、刑の減免を定める同条2項を適用する余地もない。
結論
被告人の殺害行為について、盗犯等防止法1条の適用を否定した原判断は正当である。
実務上の射程
盗犯等防止法が適用される場面においても、刑法上の正当防衛と同様に「侵害の急迫性(現在性)」が厳格に要求されることを示す。侵害が既に終了し、単なる復讐や後顧の憂いを絶つ目的でなされた行為については、同法の厚い保護(過剰防衛の必要的免除等)は及ばないという限界を画定する事案である。
事件番号: 昭和24(れ)1986 / 裁判年月日: 昭和24年11月26日 / 結論: 棄却
一 論旨は被告人の所爲は殺意を以て行われたと認むべき證明がないから傷害致死罪を以て處斷すべきものであるというのである。しかし原刑決は被告人の殺意の點を「凶器の種類、攻撃の個所、回數並びに傷害の部位程度に徴し」て認定しているのである。然らば原判決がこの證據と原判示他の證據とを綜合して判示事實が刑法一九九條殺人罪に該當する…