しかし、原判決の確定したところによると、被告人は朝鮮人AことBが開墾地内から薪木を窃取して帰るのを見て、同人に対し「そんなに薪木を持つて行つたら困るではないか」と申し向けたところ、同人は「なにつ」と言い乍ら杖にしていた長さ約四尺、直径約二寸五分の雑木の生木をもつて打ち掛つてきたので、之を奪い取つた折柄、同人がなおも素手で自己に組付こうとする気勢を示した為、同人の頭部を右生木をもつて一回殴打して傷害を加え因て同人をしてその頃同所において死亡するに至らしめたというのであつて、右のように生木をもつて打ち掛つてきた本件被告者が生木を奪い取られてもなお素手で組付こうとする気勢を示したことは特段の事情のないかぎり急迫不正の侵害があつたものといわなければならない。従つてこの場合被告人が自己の権利を防衛するため反撃に出ることも己むを得ないところであり、反撃行為として奪い取つた生木で相手方を殴打することも防衛行為として己むを得ない場合もあり得るのである。記録によると本件被害者は共謀な朝鮮人であるという噂のある人物で、背は被告人より一寸高く四角張つた身体つきで、獰猛な人相をしており、被告人のような者が二人がかりでかかつても素手では到底かなわないと思われるような男であつたことが判る。そして被告人は被害者と間近かに相対していたので相手に組付かれては大変だと思つたので奪い取つた生木で相手の殴つたというのであるから、特段の事情のないかぎり被告人の防衛行為は正当防衛に該当するものといわなければならない。
正当防衛にあたる事例
刑法36条1項
判旨
凶器を奪われた被害者がなお素手で組み付こうとする気勢を示した場合、特段の事情がない限り「急迫不正の侵害」が継続しており、これに反撃して打撃を加える行為も「やむを得ずにした行為」として正当防衛が成立し得る。
問題の所在(論点)
刑法36条1項の正当防衛の成否、特に凶器を奪取した後の「急迫不正の侵害」の継続性と、奪取した凶器を用いた反撃行為の「やむを得ずにした行為」への該当性が問題となる。
規範
1.「急迫不正の侵害」は、相手方が凶器を奪われた後であっても、なお素手で組み付こうとするなど攻撃の気勢を示している場合には、特段の事情がない限り継続していると解される。2.「やむを得ずにした行為」(防衛の必要性・相当性)は、侵害の態様、防衛者の体格差、武器の有無、現場の状況等を総合的に考慮し、自己の権利を防衛するために反撃に出ることが必要と認められる範囲内であれば肯定される。
重要事実
被告人は、開墾地から薪木を窃取した被害者(B)を注意したところ、Bから長さ約1.2m、直径約7.5cmの生木で打ちかかられた。被告人はその生木を奪い取ったが、Bはなおも素手で被告人に組み付こうとする気勢を示した。被害者Bは獰猛な人相で、被告人より体格に勝り、被告人が二人掛かりでも素手では到底かなわないと思われるほど強靭な男であった。被告人は、間近で組み付かれては大変だと思い、奪い取った生木でBの頭部を1回殴打し、死亡させるに至った。
あてはめ
まず、Bは生木を奪われた後も素手で組み付こうとする気勢を示しており、侵害の危険は客観的に継続していたといえる。次に、Bは被告人を圧倒する体格と腕力を有しており、近接した距離で組み付かれることは被告人の身体に対する重大な危険を意味する。このような状況下では、被告人が自己の権利を防衛するために反撃に出ることは必要不可欠である。反撃手段として奪った生木を用いた点についても、相手の強暴性や状況に照らせば、直ちに相当性を逸脱するものとはいえず、特段の事情がない限り防衛行為として許容される範囲内であると評価される。
結論
被告人の行為は、特段の事情がない限り刑法36条1項の正当防衛に該当する。これを否定した原判決には理由齟齬の違法がある。
実務上の射程
侵害者が武器を失った後でも、体格差や戦意の継続により侵害が継続していると認定する際の有力な拠り所となる。答案上は、侵害の継続性を肯定した上で、武器の対等性が逆転した場合(本件のように奪った武器で反撃する場合)でも、体格差等の具体的状況から「やむを得ない」範囲内であると論じる際の論理構成として有用である。
事件番号: 昭和29(あ)2347 / 裁判年月日: 昭和31年11月27日 / 結論: 棄却
本件記録によれば、なるほど、いさかいの発端は、むしろ被害者が被告人を罵倒し拳固で被告人を突いて来たため、当初は被告人が守勢にあつたが、そのうち被告人も両手で相手方を押してゆき、被告人は本件肥立万能を手にした後も相手方の突いて繰るのを防禦するだけではなく、反つてその万能で相手方を押してゆくような攻撃に出ていたのであり、被…