判旨
被告人が原審で主張していない場合であっても、原判決が認定した事実関係に照らして正当防衛(刑法36条1項)や過剰防衛(同条2項)の成立が明らかに否定される場合には、これらの規定を適用しないことに違法はない。
問題の所在(論点)
被告人が原審において正当防衛または過剰防衛の主張を行っていない場合、あるいは原判決が認定した事実関係において正当防衛等の成立が明らかに否定される場合、刑法36条1項または2項を適用しないことは適法か。
規範
刑法36条1項の正当防衛または同条2項の過剰防衛の適用が認められるためには、急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為といえることが必要である。また、上告審においてこれらの規定の適用を主張する場合、原判決の認定事実に照らしてその不適用が明白であるときは、適用しなかった判断は正当である。
重要事実
被告人は刑事裁判の原審において、正当防衛または過剰防衛の主張を行っていなかった。原判決が認定した被告人の具体的な所為によれば、正当防衛や過剰防衛の要件を満たすような事情は存在しなかった。
あてはめ
本件において、被告人は原審で正当防衛等の主張を行っておらず、原判決が認定した事実関係に照らしても被告人の行為が防衛行為に該当しないことは明らかである。したがって、正当防衛等の成立を前提とした刑法36条の適用を求める上告趣意は、実体法上の根拠を欠くものと解される。
結論
本件被告人の行為について、正当防衛および過剰防衛の成立を認めず、刑法36条を適用しなかった原判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、正当防衛等の主張がなされていない事件における裁判所の判断範囲と、認定事実に基づく明白な不成立を判示したものである。答案上は、事実認定の結果として明らかに防衛の意思や急迫性等が欠如している場合に、正当防衛の検討を端的に排斥する際の論拠として利用できる。
事件番号: 昭和27(あ)3533 / 裁判年月日: 昭和28年7月2日 / 結論: 棄却
第一審判決の認定事実によれば、被害者の暴行は、仲裁の余地が存し、従つて、必ずしも急迫の侵害といえないし、また、被告人は自らも喧嘩闘争の決意を起し判示折込ナイフを以て兇器を持たない被害者を殺傷した事態に照し、権利を防衛するため己むことを得ないでした行為ともいえないこと明らかである。