所論過剩防衛行為については法律上当然にその刑を減軽し又は免除しなければならないものではなく減軽又は免除するかどうかは裁量にまかされたところである。従つて右過剩防衛の主張は旧刑訴法第三六〇条第二項の主張にあたらないものというべく原判決が原審弁護人のこの点の主張に対する判断を明示しなかつたことに所論のような違法はない。なお過剩防衛の主張にはその前提として当然正当防衛の主張を含むというものではなく、原審公判調書を調べてみても弁護人が正当防衛の主張をしたものとは認められない。
一 一、過剩防衛の主張と旧刑訴法第三六〇条第二項 二 一、過剩防衛の主張にはその前提として当然正当防衛の主張を含むか
刑法36条2項,旧刑訴法360条2項
判旨
刑法36条2項の過剰防衛は、裁判所の裁量により刑を減軽または免除し得るにとどまり、法律上当然に減免すべき事由ではないため、判決に付すべき理由としての主張に当たらない。また、過剰防衛の主張がなされたからといって、当然にその前提となる正当防衛の主張が含まれると解することはできない。
問題の所在(論点)
1. 過剰防衛の主張は、裁判所が判決において必ず判断を示さなければならない「法律上刑の減免の理由となる事実の主張」に該当するか。2. 過剰防衛の主張には、当然に正当防衛の主張が含まれると解すべきか。
規範
1. 過剰防衛(刑法36条2項)は、その刑を減軽し又は免除することができるとする「裁量的減免事由」であり、法律上当然に刑を減免すべき事由ではない。2. 訴訟手続上、過剰防衛の主張は旧刑訴法360条2項(現行刑訴法335条2項参照)の「法律上刑の加重減免の理由となる事実の主張」には該当しない。3. 過剰防衛の主張は、その性質上、当然に正当防衛(刑法36条1項)の主張を包含するものではない。
重要事実
被告人の弁護人は、本件行為が過剰防衛に該当すると主張したが、第一審および原審(二審)はこれに対する判断を判決中で明示しなかった。これに対し、弁護人は、過剰防衛の主張は刑の減免事由に関する主張であり、これに判断を示さないことは判決に理由を付さない違法(旧刑訴法360条2項違反)があるとして上告した。また、過剰防衛の主張には前提として正当防衛の主張が含まれるべきであるとも訴えた。
あてはめ
1. 過剰防衛が成立する場合であっても、刑を減免するか否かは裁判所の裁量に委ねられている。したがって、必要的減免事由とは異なり、裁判所が必ず判断を明示すべき事項には当たらない。2. 過剰防衛は急迫不正の侵害に対して防衛の意思で行われたが「程度を超えた」場合を指すのに対し、正当防衛は「相当性」を要件とする別個の評価である。弁護人が過剰防衛のみを主張し、記録上も正当防衛の主張が認められない以上、当然に正当防衛の主張がなされたと解することはできない。
結論
過剰防衛の主張は裁量的減免事由にすぎず、判決に判断を明示する必要はない。また、過剰防衛の主張から当然に正当防衛の主張を読み取ることはできず、原判決に違法はない。
実務上の射程
裁量的減免事由(過剰防衛、自首等)については、現行刑訴法335条2項の「法律上刑の加重減免の理由となる事実の主張」に含まれないという実務上の運用を裏付ける。答案上は、被告人側の主張に対する裁判所の応答義務の範囲を論ずる際の根拠となる。また、予備的・段階的な主張を構成する際は、正当防衛と過剰防衛を明確に区別して主張すべきであるという教訓を示す。
事件番号: 昭和25(あ)1599 / 裁判年月日: 昭和26年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本決定は、刑法36条1項の正当防衛につき、弁護人が主張する事由が刑訴法405条の上告理由に当たらないことを示したものである。個別の具体的事実関係に基づく判断の妥当性ではなく、上告受理の形式的要件を判断している。 第1 事案の概要:被告人が特定の犯罪事実について起訴され、下級審において有罪判決を受け…