所論は原判決に審理不盡或いは理由齟齬の違法があると云うものの、その趣旨とするところは要するに原判決が被告人の所爲を目して正當防衛行爲ではないと認めたことに對して異議を述べるのであるから、かような主張は結局原判決の事實認定に對する非難に外ならないので論旨は適法な上告の理由と云うことは出來ない。
正當防衛の主張と上告理由
刑訴應急措置法13條,刑法36條1項
判旨
いわゆる「喧嘩」の最中の行為であっても、直ちに正当防衛の成立を否定すべきではなく、具体的な状況に応じて成立の余地がある。もっとも、正当防衛の成否に関する事実認定に異議を述べる主張は、適法な上告理由とはならない。
問題の所在(論点)
対立抗争(いわゆる喧嘩)の状態にある場合に、正当防衛(刑法36条1項)が成立する余地があるか。また、原審の「喧嘩中であるから正当防衛を認めない」という認定に審理不尽等の違法があるといえるか。
規範
「喧嘩」と呼ばれる対立抗争状態であっても、直ちに正当防衛(刑法36条1項)が否定されるものではない。急迫不正の侵害の有無、防衛の意思、行為の相当性については、事案ごとの具体的な状況(凶器の性質、被害者の動向、攻撃の態様等)に照らして判断されるべきである。
重要事実
被告人と被害者Aとの間で殴り合いの「喧嘩」が発生し、その最中に被告人が凶器(包丁)を用いてAに負傷させた。原審は、喧嘩中であることを理由に一概に正当防衛の成立を認めなかった。これに対し弁護人は、Aが勢いよく飛びかかってきた瞬間に包丁が刺さった可能性や、包丁の鋭利さ、Aの着衣の薄さなどを考慮すべきであり、審理不尽・理由齟齬があると主張して上告した。
あてはめ
弁護人は、Aが殴りかかる態度をとっていたか否か等の具体的事実を詳細に審理すべきと主張する。しかし、原審の証拠説明によれば、第三者がAを止めた際にAが被告人に襲いかかる態度はなかった旨の供述が採用されており、これに基づく事実認定に不合理はない。上告趣意が主張するような「具体的な状況への配慮不足」という批判は、実質的には原判決の事実認定そのものに対する非難であり、適法な上告理由にはあたらない。
結論
本件行為を正当防衛ではないとした原判決の認定は維持され、上告は棄却される。
実務上の射程
「喧嘩」と評価される事案であっても正当防衛の余地を残す点に意義がある。答案上は、喧嘩両成敗的に一律に否定するのではなく、急迫不正の侵害の有無を個別具体的に検討する際の前提(喧嘩=直ちに急迫性欠如ではない)として活用できる。ただし、本判決自体は事実認定の当否を争う上告を退けた事案である点に留意する。
事件番号: 昭和24(れ)44 / 裁判年月日: 昭和24年6月25日 / 結論: 棄却
一 喧嘩鬪爭の過程において爲される相互の反撃行爲は、正當防衞の觀念を容れないものである。(昭和二三年七月七日、同年(れ)第七三號大法廷判決參照) 二 かりに本件の喧嘩鬪爭が、所論のごとく、決鬪にあたるものとしても決鬪によつて人を殺傷した者は、刑法の各本條によつて、處斷せられることは、明治二二年一二月三〇日法律第三四號決…