一 喧嘩鬪爭の過程において爲される相互の反撃行爲は、正當防衞の觀念を容れないものである。(昭和二三年七月七日、同年(れ)第七三號大法廷判決參照) 二 かりに本件の喧嘩鬪爭が、所論のごとく、決鬪にあたるものとしても決鬪によつて人を殺傷した者は、刑法の各本條によつて、處斷せられることは、明治二二年一二月三〇日法律第三四號決鬪に關する件第三條の規定するところであるから、原審が本件の傷害致死の事實につき刑法の規定を適用したことをもつて、違法なりとする何らの根據はない。
一 喧嘩と正當防衞 二 決鬪により人を殺傷した者に對し刑法の規定を適用することの正否
刑法36條,刑法205條,明治22年法律34號決鬪に關する件3條
判旨
喧嘩闘争の過程においてなされる相互の反撃行為については、急迫不正の侵害という正当防衛の要件を欠くため、正当防衛の成立は認められない。
問題の所在(論点)
喧嘩闘争の過程における反撃行為について、刑法36条1項の正当防衛が成立するか。また、決闘の結果として殺傷行為が行われた場合に刑法の規定を適用できるか。
規範
刑法36条1項の正当防衛が成立するためには「急迫不正の侵害」が存在することを要する。喧嘩闘争の過程において為される相互の反撃行為は、自ら進んで侵害を招き、闘争状態を創出するものであるから、正当防衛の観念を容れる余地はない。
重要事実
被告人AおよびCは、被害者Bとの間で喧嘩闘争を行い、その過程においてBに対し共同加功の意思連絡の下で反撃行為を加えた。その結果、Bを傷害致死に至らしめた。弁護側は、当該行為がBの攻撃に対する反撃であり正当防衛が成立すると主張して上告した。また、本件が「決闘」に該当する場合、刑法ではなく決闘罪に関する規定が適用されるべきではないかが問題となった。
あてはめ
被告人らの行為は、被害者Bとの喧嘩闘争の過程においてなされた相互の反撃行為である。このような闘争状態における行為は、一方的な侵害に対する防衛行為ではなく、互いに攻撃を予期し容認して行われるものであるから、正当防衛の前提となる「急迫不正の侵害」は認められない。また、仮に本件が「決闘」の性質を有していたとしても、「決闘に関する件」3条に基づき、決闘による殺傷行為は刑法の各本条(傷害致死等)によって処断されるべきものである。
結論
被告人らの行為に正当防衛は成立せず、傷害致死罪の共同正犯が成立する。また、喧嘩・決闘の場面であっても殺傷の結果については刑法を適用して処断することは適法である。
実務上の射程
自ら闘争を招いた「自招侵害」の一類型として、伝統的な「喧嘩闘争」の理論を示す射程を持つ。答案上は、急迫不正の侵害の有無を判断する際、侵害の予期や加害意図の有無を検討する根拠として用いる。ただし、現在の実務(最決昭52・7・21等)では、単なる喧嘩であっても具体的状況により侵害の急迫性が否定されない場合があるため、本判例を絶対視せず、個別具体的な状況(攻撃の継続性や質的変化)に応じて論述する必要がある。
事件番号: 昭和24(れ)1640 / 裁判年月日: 昭和24年10月15日 / 結論: 棄却
原判決の確定した事實の要旨は被告人に豫てAと些細のことから喧嘩口論を繰り返すようになつていたが判示の日時に右A及び被害者Bの兩名から呼出しをかけられて喧嘩の蒸し返しだらうと察し匕首を用意して出向いたところ被害者から執拗に喧嘩をいどまれ毆られたりした上被害者が椅子を振り上げて被告人に打ちかゝる態度をとつたので被告人は激昂…