新憲法施行後においても当裁判所は、有毒飲食物等取締違反被告事件につき、犯罪の構成に必要な事実の認識に欠くるところがなければその事実が法律上禁ぜられていることを知らなかつたとしても、犯意の成立を妨げるものでない旨説示して従前の判例を維持したのである(昭和二三年(れ)第二〇二号同年七月一四日大法廷判決)。そしてその後当裁判所は右判例の趣旨に従つて判決をしているのであつて(昭和二四年(れ)第三一六号同年二五年四月一八日第三小法廷判決、昭和二四年新(れ)第一五〇号同二五年六月六日第三小法廷判決、昭和二四年(れ)二二七六号同二五年一一月二八日第三小法廷判決昭和二五年(れ)第一三三九号同年一二月二六日第三小法廷判決)、今にわかに右判例を変更しなければならない理由を見出すことはできない。刑罪法令が公布と同時に施行されてその法令に規定された行為の違法を認識する暇がなかつたとしても犯罪の成立を妨げるものではない。
犯罪の成立と違法の認識
刑法令38条3項
判旨
急迫不正の侵害を回避したとしても、既に危険が去った後に逃走する相手を追い詰めて殺傷する行為は、正当防衛の要件である「やむを得ずにした行為」とは認められない。
問題の所在(論点)
急迫不正の侵害が既に去り、相手方が逃走している状況下において、執拗に追跡して殺傷した行為について、正当防衛(刑法36条1項)が成立するか。
規範
正当防衛(刑法36条1項)が成立するためには、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため「やむを得ずにした行為」であることを要する。侵害が既に終了し、防衛の必要性が消滅した後の加害行為には、正当防衛の成立は認められない。
重要事実
被告人らは襲撃を受けた際、当初の乱闘現場から被害者らが逃走し、被告人らに対する危険は既に去っていた。しかし、被告人らは逃走する被害者を多人数で約100メートル余り追跡し、裏庭の一隅に追い詰めて逃げ場を失わせた上で、殺意(未必の故意)をもって殺害した。被告人らは襲撃により驚愕・昂奮した状態にあった。
あてはめ
本件では、被害者らが逃走し始めた時点で被告人らへの危険は去っており、急迫不正の侵害は既に終了していたといえる。それにもかかわらず、被告人らが逃走する被害者を執拗に追跡し、追い詰められた被害者に致命的な暴行を加えたことは、防衛の意思に基づく「やむを得ない行為」の範囲を明らかに逸脱している。被告人が極度に驚愕・昂奮していたという主観的事情を考慮しても、客観的な防衛の必要性が失われた後の行為である以上、正当防衛を認める余地はない。
結論
被告人らの行為は、自己または他人の権利を防衛するためにやむを得ずに出たものとは認められず、正当防衛は成立しない。
実務上の射程
侵害の終了後の追撃行為について正当防衛を否定した典型例。答案上では「急迫性」の喪失、または防衛行為の「相当性」を欠く場面として引用し、時間的・場所的連続性があっても侵害が終了していれば正当防衛が否定されることを示す際に有用である。
事件番号: 昭和52(あ)703 / 裁判年月日: 昭和52年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】喧嘩闘争において、一場面のみを切り離して判断するのではなく、闘争の全過程を総合的に考慮した上で正当防衛の成立を否定した原審の判断を相当とした。 第1 事案の概要:被告人は「喧嘩闘争」に及んだが、その一場面において相手方からの攻撃に対し反撃行為を行った。被告人は当該場面における防衛行為が正当防衛また…
事件番号: 昭和46(あ)1036 / 裁判年月日: 昭和46年10月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】殺人の実行行為において、凶器の形状や攻撃部位等の客観的状況から死の結果発生の可能性を認識・認容していたといえる場合には、未必の殺意が認められる。 第1 事案の概要:被告人は、出刃包丁を所携した状態で被害者であるA巡査と対峙した。その際、被告人は当該出刃包丁を用い、人体における枢要部であるA巡査の胸…