判旨
被告人が格闘の末に相手から拳銃を奪取した後、相手が身を潜めて射撃を免れようとする姿勢をとっている状況で発射した行為は、急迫不正の侵害が継続しているとは認められず、正当防衛も過剰防衛も成立しない。
問題の所在(論点)
格闘の結果として相手方から武器(拳銃)を奪取した後、なおも射撃を加える行為について、急迫不正の侵害が継続しているといえるか、あるいは過剰防衛の成立が認められるかが問題となる。
規範
正当防衛(刑法36条)の成否は、当該行為がなされた具体的状況に照らし、急迫不正の侵害が存在するか、及び防衛行為として相当といえるかによって判断される。侵害行為が一旦停止し、相手方に攻撃の気勢が認められない客観的事状がある場合には、侵害の現在性を欠き、正当防衛の余地はない。
重要事実
停車中の乗用車内において、被告人とAとの間で格闘が生じたが、被告人はAの手から拳銃を奪い取った。その直後の射撃時、被告人は運転席側におり、対するAは後部座席前の床上に身体を低くし、被告人からの射撃を免れようとして前部座席の背後に身を潜める姿勢をとっていた。
あてはめ
事実関係によれば、被告人が射撃した時点で拳銃は既に被告人の手中にあり、被害者Aは射撃を避けるために身を潜める消極的な姿勢をとっていた。この状況下では、被告人とAとの間の格闘が継続していたとは認められず、Aによる急迫不正の侵害は既に止んでいたといえる。したがって、侵害の現在性を前提とする正当防衛の要件を欠き、恐怖や興奮による過剰防衛(刑法36条2項)の適用も否定される。
結論
被告人の行為に正当防衛および過剰防衛の成立を否定し、殺人未遂罪(または傷害罪)等の成立を認めた原判断は妥当である。
実務上の射程
武器を奪取した後の追撃行為における「侵害の継続性」の判断基準を示す。侵害者が防禦的姿勢に転じている事実は、侵害の終了を基礎付ける重要な考慮要素となる。答案上では、防衛行為時の客観的状況を詳細に指摘し、侵害の現在性を否定するあてはめのモデルとして有用である。
事件番号: 昭和52(あ)703 / 裁判年月日: 昭和52年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】喧嘩闘争において、一場面のみを切り離して判断するのではなく、闘争の全過程を総合的に考慮した上で正当防衛の成立を否定した原審の判断を相当とした。 第1 事案の概要:被告人は「喧嘩闘争」に及んだが、その一場面において相手方からの攻撃に対し反撃行為を行った。被告人は当該場面における防衛行為が正当防衛また…
事件番号: 昭和25(あ)1243 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件第一審判決は、弁護人の正当防衛の主張を排斥して「Aが拳銃を携えていたことは認め得るが、同人が拳銃を被告人の心臓部に突き付けたということは之を認め難く、従つて未だ急迫不正の侵害行為があつたとは謂い得ない」と判示し、原判決もこの認定を是認したのである。「被害者が拳銃を所持していたことを認め」たからとて、それは必ずしも所…