數個の證據を綜合して事實を認定する場合においては、個々の證據を各別に觀察すれば各證據は事實の如何なる部分の證明として役立つかを識別することはまぎらわしいことがあつても、これ等數個の證據が互に關連して相互に矛盾しない限り、これ等を綜合しておのずから特定の事実が認定されるにおいてはこのような證據説示の方法をとっても差支えない。原判決の證據説明によれば、數個の證據を列記しておりそれが如何なる事実を證明するかを一々詳細には説明していないがその證據を吟味すれば、如何なる事實の證明に役立つかを識別することは容易でありこれを綜合すれば判示事項を證明し得るものであるから證據説明としては欠くるところはない。所論のように、此の證據は此事實を證明するものであり、彼の證據は彼の事實を證明するものであることを一々詳述しなくとも違法とはいい得ない。
綜合認定と證據説示の方法及び程度
舊刑訴法336條,舊刑訴法337條
判旨
複数の証拠を総合して事実認定を行う際、個々の証拠がどの事実を証明するかを逐一詳細に説明しなくとも、各証拠が相互に関連し矛盾せず、全体として特定の事実が認定できるのであれば証拠説明として適法である。
問題の所在(論点)
刑事裁判における事実認定において、判決文に個々の証拠と具体的立証事実の対応関係を詳細に記述する必要があるか、および総合考慮による事実認定の許容性が問題となった。
規範
証拠裁判主義の下で事実を認定する際、数個の証拠を総合して判断する手法(総合考慮)が認められる。この場合、個々の証拠と立証事実の対応関係が必ずしも一対一で明示されていなくとも、それらの証拠が互いに関連し、かつ矛盾が生じない限り、総合的な証拠説示によって事実を認定することは許容される。
重要事実
被告人が死体をリヤカーから肥溜に落として遺棄したとされる事案において、原審は複数の証拠を列記して事実認定を行った。被告人側は、個々の証拠がどの事実(死体の向きや落とし方等の具体的状況)を証明するのかが詳述されておらず、また死体の落ち方に関する被告人の供述が物理的な経験則に反する不自然なものであるとして、証拠説明の不備や理由齟齬を主張して上告した。
あてはめ
原判決の証拠説明を検討すると、複数の証拠を列記するにとどまり、個別の事実との対応関係を逐一詳述してはいない。しかし、個々の証拠を吟味すれば、それがどの事実の証明に資するかを識別することは容易である。また、それらの証拠を総合すれば判示事実を十分に証明し得る。さらに、死体の落ち方に関する被告人の供述についても、リヤカーの構造や物理的状況に照らせば経験則上あり得ないことではなく、供述を証拠として採用したことに合理性がある。したがって、証拠説示の方法に欠陥はないといえる。
結論
判決において各証拠がどの事実を証明するかを個別に詳述しなくても、証拠を総合して特定の事実を認定できるのであれば違法ではない。上告棄却。
実務上の射程
刑事訴訟における判決書の理由記載(証拠の標目)の程度に関する指針となる。実務上、証拠の総合評価によって事実を認定する際の説示の限界を示しており、個別の証拠と事実を機械的に対応させる必要はないが、全体として矛盾のない合理的な推論過程が示されていることが求められる。
事件番号: 昭和24(れ)1129 / 裁判年月日: 昭和24年11月26日 / 結論: 破棄差戻
原判決は所論刺身包丁(證第一號)の存在を他の證據と綜合して斷罪の證據に供していることは、原判文上明らかである。しかるに原審第一公判調書において刺身包丁云々との問答の記載はあるが(記録二五丁裏)刺身包丁そのものを被告人に示した記載はなく又同公判調書に依れば刺身包丁に關し司法警察官作成の押収調書に對し證據調が爲されてはいる…
事件番号: 昭和24(れ)1986 / 裁判年月日: 昭和24年11月26日 / 結論: 棄却
一 論旨は被告人の所爲は殺意を以て行われたと認むべき證明がないから傷害致死罪を以て處斷すべきものであるというのである。しかし原刑決は被告人の殺意の點を「凶器の種類、攻撃の個所、回數並びに傷害の部位程度に徴し」て認定しているのである。然らば原判決がこの證據と原判示他の證據とを綜合して判示事實が刑法一九九條殺人罪に該當する…