原判決は所論刺身包丁(證第一號)の存在を他の證據と綜合して斷罪の證據に供していることは、原判文上明らかである。しかるに原審第一公判調書において刺身包丁云々との問答の記載はあるが(記録二五丁裏)刺身包丁そのものを被告人に示した記載はなく又同公判調書に依れば刺身包丁に關し司法警察官作成の押収調書に對し證據調が爲されてはいるが(記録二六丁裏)右は刺身包丁それ自体に對する證據調べでないことは論をまたないところであつて、その他は原審公判調書の何處にも刺身包丁それ自体に關し舊刑訴法第三四一條所定の證據調を履踐した形跡がない。しからば適法な證據調をしない所論刺身包丁(證第一號)を他の證據と綜合して斷罪の資料に供した原判決は採證の法則に違反した違法の判決であつて、論旨は理由がある。
適法な證據調を經ない證據と他の證據を綜合して犯罪事實を認定した判決の違法
舊刑訴法341條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法336條
判旨
証拠物である刺身包丁について、被告人に示す等の適法な証拠調べの手続を経ることなく、断罪の資料に供した原判決は、採証の法則に違反する違法なものである。
問題の所在(論点)
証拠物(刺身包丁)そのものに対する証拠調べ手続を経ずに、当該証拠物に関する書面(押収調書等)の証拠調べのみに基づき、当該証拠物を事実認定の資料に供することは許されるか。
規範
裁判所が特定の証拠物を有罪の証拠(断罪の資料)とするためには、当該証拠物自体につき、法が定める適法な証拠調べ手続(現行法上の証拠物に対する展示等)を履践しなければならない。証拠物に関連する書面(押収調書等)の証拠調べをもって、証拠物自体の証拠調べに代えることはできない。
重要事実
被告人が凶器として使用したとされる刺身包丁(証第一号)について、原審の公判調書には刺身包丁に関する問答や、司法警察官作成の「押収調書」に対する証拠調べの記載はあった。しかし、刺身包丁そのものを被告人に示した記載はなく、その他刺身包丁自体に関し法所定の証拠調べを履践した形跡もなかった。原判決は、この刺身包丁を他の証拠と総合して有罪の根拠としていた。
あてはめ
原審において、刺身包丁に関する問答や押収調書の証拠調べは行われているが、これらは「刺身包丁それ自体」に対する証拠調べではない。証拠物そのものを証拠とする以上、法が定める手続(被告人への呈示等)が必要である。それにもかかわらず、適法な証拠調べを欠く刺身包丁を断罪の資料に供した原判決には、採証の法則に違反した違法があり、かつその違法は事実の確定に影響を及ぼすことが明らかである。
結論
適法な証拠調べを経ない証拠物を有罪の証拠とした原判決には、採証法則違反の違法があるため、原判決を破棄し差戻す。
実務上の射程
刑事訴訟法306条1項(証拠物の証拠調べ)に関し、証拠物そのものと、その存在を証明する報告書面(押収調書)は別個の証拠であることを明確にしたもの。実務上、証拠物の取り調べは「展示」という方法で行う必要があり、書面の朗読等で代替してはならないという原則を基礎づける判例である。
事件番号: 昭和24(れ)1724 / 裁判年月日: 昭和24年11月8日 / 結論: 棄却
數個の證據を綜合して事實を認定する場合においては、個々の證據を各別に觀察すれば各證據は事實の如何なる部分の證明として役立つかを識別することはまぎらわしいことがあつても、これ等數個の證據が互に關連して相互に矛盾しない限り、これ等を綜合しておのずから特定の事実が認定されるにおいてはこのような證據説示の方法をとっても差支えな…