一 判決書に公判に關與した檢事の官氏名を遺脱した違法があつた場合においも、事實上檢事が公判に關與して被告事件の陳述を爲す等、公判審理の手續が適法に施行せられた以上、右の違法は判決に影響を及ぼさないこと明白であるから、それを上告の審理とすることはできない。 二 裁判所が證據調を爲す旨の決定をしたときは、自らその決定に拘束せられ、その決定を施行しなければならないことは勿論であつて、原裁判所が被告人の辯護人の申出に係る證據調(證人喚問)を採用する旨の決定を言渡しながら、その後右證人を喚問することなく、又右證據調の決定を取消すことなくして審理を終結し、判決を言渡したことは違法である。 三 原審第五回公判において、原審相被告人Aの辯護人南出一雄がさきに申出た證人B病院の醫師の喚問の申請を抛棄する旨を申出てはいるが、證據調の申請をしたのは被告人Cの辯護人關川重雄であるに對し、申請抛棄の申立てをしたのは原審相被告人Aの辯護人南出一雄であるから、前者の申請は後者の申請抛棄によつて適法に撤回されたことにはならないのである。
一 判決書に公判に關與した檢事の官氏名を遺脱した違法と上告理由 二 證人喚問決定をしながら、證人を喚問せず、又その決定を取消すことなくして審理を終結してなされた判決の違法 三 或被告人の辯護人なした證人喚問申請を他の相被告人の辯護人が抛棄する旨申立てた場合と撤回の効果の有無
刑訴法69條2項,刑訴法411條,刑訴法338條3項,旧刑訴法344條,旧刑訴法409條
判旨
裁判所が証拠調べを決定したときは、自らその決定に拘束されるため、これを施行せず、かつ適法な撤回や取消しも経ないまま審理を終結させることは訴訟手続の違法にあたる。また、殺人の故意は、死に至ることをも覚悟の上で凶器を用い斬り込みを行うという認識・認容があれば認められる。
問題の所在(論点)
1. 殺害の認容がある場合に殺人の故意が認められるか。2. 裁判所が採用決定した証拠調べを、適法な撤回や取消しの手続を経ずに施行しなかった場合、訴訟手続の違法となるか。
規範
1. 裁判所が一度証拠調べをする旨の決定をした以上、裁判所はその決定に拘束される。したがって、適法な申請の撤回や決定の取消しがない限り、当該証拠調べを施行せずに審理を終結させることは、判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の法令違反(旧刑事訴訟法410条13号参照)となる。2. 殺人の故意については、被害者が死亡する結果を覚悟の上で(認容して)加害行為に及んだと認められる場合には、その認識・認容があるものとして肯定される。
重要事実
被告人らは、相手方が交渉に応じない場合は日本刀等で斬り込み、殺害することも覚悟の上で共謀し、実際に相手を突き刺し失血死させた。また、原審において被告人Cの弁護人が医師の証人尋問を申請し、裁判所が採用決定を下したが、その後、共同被告人の弁護人が同証人の申請を放棄したのみで、C側の申請は撤回されず、裁判所も採用決定を取り消さないまま証人尋問を行わずに審理を終結させ、判決を言い渡した。
あてはめ
1. 被告人らは、交渉が決裂した際には「殺すに至ることをも覚悟の上で」斬り込むことを決意し、実際にその認識で突き刺し等の行為に及んでいる。これは死の結果を認識・認容しながら敢行したものといえ、殺人の故意が認められる。2. 被告人Cの弁護人が行った証拠調べ申請に対し、裁判所は採用決定をしている。共同被告人Aの弁護人が行った申請放棄は、別個の主体であるCの申請を撤回する効力を持たない。そのため、Cの申請に係る証拠調べ決定は有効に存続しており、これを施行せずに審理を終結させた原審の措置は裁判所の自己拘束性に反し、事実確定に影響を及ぼすおそれのある違法な手続である。
結論
被告人らの殺人の故意は肯定されるが、被告人Cについては、採用決定された証拠調べを施行しなかった原審の手続に違法があるため、Cに関する原判決を破棄し差戻す。被告人Dの上告は棄却する。
実務上の射程
証拠調べの決定に関する裁判所の拘束力を示した重要判例である。答案上は、証拠調べ請求の採否に関する裁量権の限界や、職権証拠調べの義務、あるいは手続違法が判決に影響を及ぼすか否かの文脈で活用できる。また、故意の認定において「覚悟の上で」という表現が認容(未必の故意)の認定手法として参考になる。
事件番号: 昭和25(れ)1597 / 裁判年月日: 昭和26年3月6日 / 結論: 棄却
記録に徴するに所論沒収物が犯人以外の者に属するものではないかとの疑ををおこさせるような事情もなくまた犯人以外の者に属すると認むべき証拠もない。かくの如く特別の事情もまた証拠のない限り判示事実に照らし本件沒収にかかる金槌は被告人以外の者に属しないと認めるを相当とする。そして原判決は、本件沒収物は被告人以外の者に属しない旨…