辯護人の請求により證據調の決定をした場合に右の決定は辯護人の請求がその前提となつているのであるから、辯護人がその請求を後に抛棄したときには、裁判所は特にその證據決定を取消さずに取調をしなかつたからといつて刑事訴訟法第四一〇條第一三號に違反するものではない。
辯護人の請求による證據調決定後その請求が抛棄せられた場合に該決定を取消すことなくして審理を終結してなされた判決の正否
刑訴法410條13號
判旨
裁判所が証拠調べを決定した後であっても、請求人がその請求を放棄した場合には、当該証拠の取り調べを行わなくとも審理不尽の違法とはならない。証拠調べの限度を決定することは事実審の自由裁量に属し、他の証拠によって事実が明らかであれば、特段の取消手続なく取り調べを止めても適法である。
問題の所在(論点)
当事者の請求により証拠調べの決定がなされた後、請求人がその請求を放棄した場合において、裁判所が当該証拠の取り調べを行わずに審理を終結させることは、証拠調べに関する裁量権の逸脱または審理不尽の違法となるか。
規範
証拠調べの範囲および限度を決定することは、事実審裁判所の自由裁量に属する。当事者の請求に基づき証拠調べの決定がなされた場合であっても、その前提となる請求が後に放棄されたときは、裁判所が特に証拠決定を取り消す手続を経ずにその取り調べを行わなかったとしても、審理不尽等の違法は存しない。
重要事実
被告人が匕首(あいくち)を用いて犯行に及んだとされる事案において、弁護人は主犯とされるAを証人として訊問するよう請求した。原審はこれを受け証人尋問を決定し、Aを公判期日に2回召喚したが、Aはいずれも出頭しなかった。これを受け、弁護人はAに対する証拠調べの請求を自ら放棄した。原審はAの尋問を行わずに他の証拠に基づき事実を認定し、判決を下した。これに対し、弁護側は証拠調べを行わなかったことが審理不尽の違法にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件では、原審は弁護人の請求に基づきAの証人尋問を決定し、累次の召喚を行うなど取り調べの努力を尽くしている。しかし、証人が出頭せず、最終的に請求人である弁護人自らが証拠調べの請求を放棄した。証拠調べの決定は当事者の請求を前提とするものであるから、その放棄があった以上、裁判所にはもはやその証拠を取り調べる義務はない。また、原審は他の証拠によって事実関係を既に明らかにしており、裁量の範囲内で証拠調べの限度を定めたものと認められる。
結論
原判決に審理不尽の違法はない。証拠調べの請求が放棄された以上、裁判所がその証拠を取り調べなかったことは正当であり、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
職権証拠調べが可能な刑事訴訟においても、当事者が請求を撤回・放棄した証拠について、裁判所がそれ以上の取り調べを行わないことは原則として適法であることを示す。実務上、立証の必要性が代替証拠によって満たされている場合の、裁判所の証拠採用に関する広範な裁量を裏付ける判例として活用できる。
事件番号: 昭和22(れ)57 / 裁判年月日: 昭和22年11月14日 / 結論: 棄却
原審公判調書の記載によつて原審審理の跡をたずねてみると、原審の裁判長が書類について證據調手續を履踐した後、被告人において「意見なく、別に訊問を求むる者なし」と陳述した事實あることが明かである。被告人のこの陳述たる刑訴應急措置法第一二條の規定によつて與られた訊問請求權を被告人において行使する意思が無かつたものと認められる…