原審が、公判廷でなされた精神鑑定の請求につき採否の決定をしないで結審したこと所論の通りであるが、公判廷における證據調の請求を却下する場合には決定でしなければならないことは、舊刑訴法第三四四條第一項の規定によつて明かであり、その決定を欠いたことは同法第四一〇條第一四號の絶對的上告理由になるのである。もつとも大審院には、裁判長が各證據調をした後、利益な證據を提出し得る旨を告知したに拘わず、被告人辯護人がこれなき旨答えて新に證據申請をしないときは、留保の證據調の請求は抛棄したものと認められるから、裁判所が却下の決定をしないで結審しても違法はない。という趣旨の判例があるけれども(大正一三年(れ)第一九五九號同年二月二〇日判決、昭和九年(れ)第五〇五號同年七月二三日判決等)、當裁判所は右のごとき問答があつても「證據調の請求を抛棄したものと解することは輕々に許されない」と判決した(昭和二二年(れ)第一二九號同年一二月一一日第一小法廷判決、昭和二四年(れ)第二六三五號同二五年三月七日第三小法廷判決)。そして前記の「前回留保した證據は何れもこれを却下する」という公判調書の記載に鑑定人も含まれるとは解し得ず、原判決はこの點において破棄をまぬがれない。
公判廷でなされた精神鑑定の請求につき採否決定をしないで結審した判決の違法と上告理由
舊刑訴法344條1項,舊刑訴法410條14號
判旨
公判廷でなされた証拠調べの請求に対し、裁判所が採否の決定をせずに結審することは違法であり、被告人側が新たな証拠申請をしない旨を答えたとしても、当然に請求を放棄したと解することはできない。
問題の所在(論点)
公判廷でなされた鑑定請求に対し、裁判所が明示的な採否の決定を行わずに結審することが、訴訟手続の法令違反(旧刑訴法410条14号の絶対的上告理由)に該当するか。
規範
公判廷における証拠調べの請求を却下する場合には、裁判所は決定をもってそれを行わなければならない。また、被告人や弁護人が「他に利益な証拠はない」旨を回答したとしても、未決定の証拠調べ請求を放棄したものと軽々に解することは許されない。
重要事実
被告人の弁護人は、第1回公判において被告人の精神状態に関する鑑定を申請した。裁判所は同時に申請された証人の一部を喚問する決定をしたが、鑑定申請については採否を留保した。続く第2回公判において、裁判所は証人尋問を行った後、「前回留保した証人は何れも却下する」と決定して結審した。公判調書上、鑑定申請に対する明示的な採否の決定はなされていなかった。
あてはめ
原審は、弁護人が申請した精神鑑定について、何ら採否の決定を行っていない。第2回公判での「前回留保した証人を却下する」との決定には、性質の異なる「鑑定人」が含まれるとは解されない。また、他に証拠がない旨を被告人側が述べたとしても、先行する証拠請求を放棄したとみなすことはできず、適切な決定を欠いたまま結審した手続には重大な違法がある。
結論
証拠調べ請求に対する採否の決定を欠いたまま結審した手続は違法である。よって、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すべきである。
実務上の射程
現行刑事訴訟法下においても、規則190条による証拠決定の重要性を示す判例として意義がある。特に、黙示的な請求の放棄を安易に認めない態度は、被告人の防御権保障の観点から重要であり、裁判所の釈明や手続管理の厳格性が求められる場面で引用し得る。
事件番号: 昭和24(れ)2245 / 裁判年月日: 昭和25年1月19日 / 結論: 棄却
舊刑訴法の下における控訴審は、純然たる覆審手續であるから、第一審における正當防衛の主張が控訴審においても當然主張されたと認めることはできない。