原審の公判調書を調べてみると、第一回公判において豊島弁護人から鑑定を申請したのに対して、裁判長はこれを留保する旨の決定を言渡したが、その後第二回第三回の公判においてもこれが採否の決定を為さず、遂に留保した儘結審し判決を言渡したこと、所論の通りである。かような違法が上告の理由となることは当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第二六三五号同二五年三月七日第三小法廷判決参照)に照らしてみても明らかである。論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない、
弁護人からの鑑定申請に対し留保の決定をしながら採否の決定を為さずに結審した判決の違法
旧刑訴法344条,旧刑訴法410条14号
判旨
裁判所が証拠調べの請求に対し採否の決定を留保したまま、その後の公判手続においても何ら決定をせず結審して判決を言い渡すことは、訴訟手続の法令違反に当たる。
問題の所在(論点)
裁判所が証拠調べの請求に対し、採否の決定を留保したまま再開・続行後の公判期日においても何ら処置を講じず、そのまま結審して判決を言い渡すことの適法性(旧刑事訴訟法下における訴訟手続の法令違反の有無)。
規範
証拠調べの請求を受けた裁判所は、速やかにその採否の決定をしなければならない。決定を一時留保することは許されるが、その後の公判期日においても採否を明確にせず、留保した状態のまま結審して判決を言い渡すことは、被告人の防御権を侵害する不適法な手続となる。
重要事実
第一審の第一回公判において、弁護人が鑑定の申請を行った。これに対し裁判長は採否を留保する旨の決定を言い渡したが、その後、第二回および第三回の公判においても採否の決定をなさなかった。結局、裁判所は鑑定申請を留保したままの状態で結審し、判決を言い渡した。
あてはめ
本件では、弁護人が請求した鑑定に対し、裁判所は当初「留保」という形式で対応した。しかし、第二回・第三回と公判が進み、実質的な審理が継続されたにもかかわらず、裁判所は当該証拠の採否を判断する機会を失念または放棄した。このように、証拠の採否という訴訟上の重要な判断を未完のまま放置して結審し、判決を言い渡すことは、適正な手続の履践を欠くものであり、重大な手続違背といえる。
結論
証拠請求に対する採否を留保したまま結審した手続には法令違反があるため、原判決は破棄を免れない。本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
現行刑事訴訟法(刑訴法298条、刑訴規則190条等)下でも同様の理が妥当する。証拠調べの請求に対する決定を失念して結審することは、被告人の立証の機会を不当に奪うものであり、絶対的控訴理由(379条:訴訟手続の法令違反)となり得る。答案上は、裁判所の訴訟指揮の不備を指摘する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1057 / 裁判年月日: 昭和26年9月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、刑訴法411条を適用して原判決を破棄すべき事由が認められないとして、上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人が上告を申し立てたが、その趣意が刑訴法405条の定める上告理由(憲法違反、憲法解釈の誤り、最高裁・高裁判例との相反)に該当しない事案である。最高裁判所は記録を精査し、職…