原審第二回公判調書によれば、弁護人は控訴趣意書記載のとおり弁論し、これに対し検察官は論旨は理由がないとの意見を述べ、裁判長は結審した旨の記載があること、右控訴趣意書には所論のような証人申請の記載があり、これを陳述したことにより、右証人申請がなされたものと認むべきことは、所論のとおりである。しかし右証人申請には刑訴三九三条一項但書、三八二条の二の所定の疎明がなされた形跡がなく、また、右裁判長の弁論終結、すなわち、証人採否の決定がなされないで弁論が終結されたのに対し、弁護人は何ら異議の申立をした形跡のない点からみると、右証人申請に対しては前示の疎明がないために不適法な申請として採否決定の要がないものとせられたか、ないしは弁護人において、右一旦なした証人申請を抛棄したものと認めるかのいずれかであつたものと解するを相当とするから、所論の違法は存しない。(昭和二九年(あ)一一四九号同年七月一七日第二小法廷決定参照)
控訴趣意書に証人尋問請求の旨の記載があつた場合、これに基く弁論は、証人尋問の請求となるか。
刑訴法298条,刑訴法389条,刑訴法393条1項但書,刑訴規則190条
判旨
控訴審における証人申請について、刑訴法393条1項但書等の疎明がない場合、裁判所は採否の決定を要せず、弁論を終結させても訴訟手続の法令違反には当たらない。
問題の所在(論点)
控訴審において、疎明を欠く不適法な証人申請がなされた場合、裁判所が採否の決定をせず弁論を終結させることは、訴訟手続の法令違反(証拠調請求に対する決定の懈怠)に該当するか。
規範
控訴審において証拠調の請求(証人申請)をする場合には、刑訴法393条1項但書または382条の2所定の疎明を要する。適法な疎明がなされない不適法な申請に対しては、裁判所は採否の決定を行う義務を負わず、そのまま弁論を終結させることができる。
重要事実
被告人の弁護人は、控訴趣意書において証人申請の記載を行い、第2回公判において当該趣意書に基づき弁論した。しかし、当該証人申請については刑訴法393条1項但書等の所定の疎明がなされた形跡がなかった。裁判長は、この証人申請に対し採否の決定を明示的に行わないまま、弁論を終結させた。弁護人は、この弁論終結に対して何ら異議を申し立てなかった。
あてはめ
本件における弁護人の証人申請には、控訴審特有の証拠制限を解除するための疎明(刑訴法393条1項但書等)が欠けていた。このような申請は不適法なものであり、裁判所が直ちに採否を決定すべき対象ではない。また、裁判長が採否を決定せずに弁論を終結させた際、弁護人が異議を述べなかった事実からすれば、当該申請は不適法として処理されたか、あるいは弁護人において申請を放棄したものと解される。したがって、採否の決定を欠いたままの結審に違法はない。
結論
本件証人申請は不適法なものであり、これに対し採否の決定をせずに弁論を終結させた原審の手続に違法は存しない。
実務上の射程
控訴審の証拠調べが原則として制限されている(393条1項)ことを前提に、実務上、疎明なき証拠請求が裁判所の決定なしに無視されても手続違反を問えないことを示す射程を持つ。答案上は、控訴審の手続の特異性や、証拠決定の懈怠を主張する際の反論として用いる。
事件番号: 昭和29(あ)1149 / 裁判年月日: 昭和29年7月17日 / 結論: 棄却
原審第一回公判調書によれば、弁護人は控訴趣意書記載のとおり弁論し、之に対し検察官は控訴趣意は理由がないとの意見を述べ、裁判長は結審した旨の記載のあることは所論のとおりである。そして右控訴趣意書には所論の如き証人申請の記載のあること、従つて右控訴趣意書の陳述により、右証人申請がなされたものと認むべきであることも亦所論のと…