原審第一回公判調書によれば、弁護人は控訴趣意書記載のとおり弁論し、之に対し検察官は控訴趣意は理由がないとの意見を述べ、裁判長は結審した旨の記載のあることは所論のとおりである。そして右控訴趣意書には所論の如き証人申請の記載のあること、従つて右控訴趣意書の陳述により、右証人申請がなされたものと認むべきであることも亦所論のとおりである。しかし乍ら、右証人申請には刑訴三九三条一項但書所定の疎明がなされた形跡がなく、又右裁判長の即時の弁論終結、即ち証人採否の決定なくして弁論が絡結されたのに対し、弁護人は何農等の異議の陳述もなされた形跡のない点から考えれば、右証人申請に対しては前示疎明なき故不適法な申請として採否決定の要なきものとせられたか、乃至は弁護人において、右一旦なしたる証人申請を抛棄したものと認めるかの何れかであつたものと解するのを相当とする。
控訴趣意書に証人尋問請求の旨の記載があつた場合、これに基く弁論は、証人尋問の請求となるか
刑訴法389,刑訴法298,刑訴法393条1項但書,刑訴規則190条
判旨
裁判所は、必要がないと認める証人まで採用尋問する義務を負わず、疎明のない不適法な証人申請や放棄されたと認められる申請について採否決定を経ずに結審しても憲法37条2項に反しない。
問題の所在(論点)
裁判所が証人申請に対して採否の決定を行わずに結審することが、被告人の証人喚問権(憲法37条2項)を侵害し、憲法違反となるか。
規範
憲法37条2項の証人喚問権の趣旨は、裁判所が必要と認めて採用決定した証人に関する規定であって、裁判所が不必要と認める者まで悉く採用尋問しなければならないという趣旨ではない。また、刑訴法393条1項但書所定の疎明がない不適法な申請については、採否の決定を要しない。
重要事実
被告人の弁護人は、控訴趣意書において証人申請を行ったが、当該申請には刑訴法393条1項但書が定める疎明がなされた形跡がなかった。原審の裁判長は、証人の採否決定を行うことなく弁論を終結したが、これに対し弁護人は何ら異議を陳述しなかった。被告人側は、証人尋問を行わなかったことが憲法37条2項に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件証人申請には刑訴法上の疎明がないため、不適法な申請として採否決定を要しないものと解される。また、裁判長が採否決定なく弁論を終結した際に弁護人が異議を述べなかった点に鑑みれば、弁護人は一旦なした証人申請を放棄したものと認められる。したがって、裁判所が必要性を認めない証人について採用しなかったとしても、証人喚問権の侵害には当たらない。
結論
本件証人申請の取り扱いに憲法違反の点はない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における証人申請の採否は裁判所の裁量に属することを再確認する判例である。答案上は、防御権行使の文脈で証人採用の要否が争点となる際、憲法37条2項が絶対的な全証人採用を義務付けるものではないことを示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1560 / 裁判年月日: 昭和26年5月10日 / 結論: 棄却
控訴裁判所は控訴趣意書に包含された事項を調査すれば足り、それ以外に渉つて控訴の理由の有無につき職権調査をしなければならないものではないのである(刑訴第三九二条参照)。