判旨
控訴審において、控訴趣意書に記載された証人尋問請求は、刑訴法393条1項但書所定の疎明がない場合、不適法な申請として裁判所による採否決定を要しない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書によりなされた証人尋問請求に対し、裁判所が採否の決定を行わずに弁論を終結させることは、証人審問権を規定する憲法37条2項等に違反するか。特に、刑訴法393条1項但書の疎明がない場合の申請の効力が問題となる。
規範
控訴審における証拠調べの請求については、刑訴法393条1項但書が「第一審の判決後に現れた証拠」または「第一審において取り調べることができなかった証拠」であることを疎明しなければならない旨を定めている。この疎明がない場合には、当該証拠請求は不適法な申請となり、裁判所はこれに対して採否の決定を下す必要はない。
重要事実
被告人の弁護人は、控訴趣意書において証人尋問を申請した。原審の第一回公判において、弁護人は控訴趣意書に基づき弁論を行い、検察官が意見を述べた後、裁判長は特段の証人採否の決定を行うことなく即時に弁論を終結し、結審した。これに対し弁護人からの異議申し立てはなされなかった。被告人側は、原審が証人喚問を行わなかったことは憲法37条2項(証人審問権)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件における証人申請には、刑訴法393条1項但書が定める疎明がなされた形跡が全く認められない。また、裁判長が証人の採否を決定せずに即時に弁論を終結させたことに対し、弁護人が異議を申し立てていない事実に照らせば、当該申請は不適法なものであって採否決定の必要がないものと解される。あるいは、弁護人において一旦なした申請を放棄したものと認められる。したがって、原審の手続きに憲法違反の前提となる「有効な申請の不当な却下」は存在しない。
結論
原審において証人申請は有効になされておらず、これを前提とする違憲の主張は理由がない。上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審特有の証拠制限(事後審的性格)を確認する判例である。答案上は、控訴審での証拠請求が認められるための要件(393条1項但書)の重要性と、疎明を欠く不適法な申請に対する裁判所の応答義務が否定される点に注意して用いる。また、弁論終結時の異議の有無が申請の放棄と推認される事情になり得る点も実務上重要である。
事件番号: 昭和26(あ)1355 / 裁判年月日: 昭和26年10月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が申請した証人の取り調べの採否を決定することは事実審裁判所の専権に属し、裁判所が必要がないと判断して証人尋問を行わなかったとしても、憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が特定の証人の尋問を裁判所に申請したが、事実審裁判所はこの証人尋問を行わないまま審理を終結した…