殺人の公訴事実について、第一審が殺意の存在を認めず、傷害致死の犯罪事実を認定したのに対し、控訴審が、みずから殺意の点に関する事実の取調をすることなく、実質上、第一審で取り調べた証拠のみに基づいて未必の殺意を認定し、殺人罪として処断することは、刑訴法四〇〇条但書の解釈上許されない。
刑訴法四〇〇条但書に違反するとされた事例
刑法199条,刑法205条,刑訴法400条
判旨
控訴審が第一審の無罪(または軽い罪)の認定を事実誤認として破棄し、自ら有罪(または重い罪)を認定する場合、第一審で取り調べた証拠のみに基づくことは許されず、原則として自ら事実の取調べを行う必要がある。
問題の所在(論点)
控訴審が、第一審で否定された殺意等の重要事実を肯定して自判により不利益な変更を行う際、自ら事実の取調べを行うことなく、第一審の証拠のみに基づいて事実認定を行うことは許されるか(刑訴法400条但書の限界)。
規範
刑事訴訟法400条但書に基づき、控訴審が第一審判決を事実誤認により破棄し、自判により被告人の不利益な事実認定(殺意の肯定等)を行う場合、実質的に第一審の証拠のみに基づき、自ら当該事実に関する取調べを行わずに認定することは、同条の解釈上許されない。
重要事実
被告人は殺人罪で起訴されたが、第一審は殺意を否定し、傷害致死罪により懲役3年執行猶予3年の判決を下した。これに対し検察官が控訴したところ、控訴審は、第一審が殺意を否定したことは事実誤認であると判断し、第一審判決を破棄。控訴審において殺意に関する新たな事実の取調べを全く行わないまま、第一審の証拠のみに基づき未必の殺意を認め、殺人罪として懲役2年6月の実刑判決を自判した。
あてはめ
本件では、被告人の殺意という主観的要件が争点となっている。第一審が証拠に基づき殺意を否定したのに対し、原審(控訴審)は現場の状況に関する検証こそ行っているが、凶器や殺意に直結する点については事実の取調べを行っていない。それにもかかわらず、原審が「死ぬかもしれないと予見しながら力を込めて突き刺した」として未必の殺意を認定したことは、実質的に第一審の証拠のみに基づいたものといえる。このような審理経過による自判は、適正な事実認定の確保を旨とする刑訴法の解釈を誤ったものと解される。
結論
原判決は刑訴法400条但書の解釈を誤り、自ら取調べを行うべき事案でこれを行わずに事実認定を覆した違法がある。よって原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
第一審の事実認定を被告人に不利益に覆す場合の「自判」の限界を示す。実務上、控訴審が逆転有罪(または重い罪への変更)を行う際は、口頭弁論において直接証拠の再取り調べや、心証を覆すに足りる独自の取調べが不可欠であることを示唆する。
事件番号: 昭和24(れ)1725 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判所が証拠調べをしていない証拠を事実認定の基礎とすることは、訴訟手続上の重大な違法であり、その証拠が事実認定に不可欠なものである場合には判決の破棄事由となる。 第1 事案の概要:第一審または控訴審において被告人の殺人の事実を認定する際、裁判所は被告人および関係人Aに対する検察官面前調書を証拠とし…