一 (少数意見要旨)裁判官小谷勝重 職権を以て調査するに、本件第一審判決の法令の適用は「刑法第一九九条、第四五条前段、第四七条、第一〇条、第一四条」となつている。従つてこの適用法条からは、その処断刑は二〇年以下の有期懲役刑でなければならない。しかるに主文は「被告人を無期懲役に処する」とあるから主文と理由との間にくいちがいがあるのである。以上のごとく本件第一審判決は理由と主文にくいちがいがあり、そのくいちがいは既述のごとく論理的にいえば寧ろ主文に誤りがあるといえるし、現実の問題からしても主文と理由の何れに誤りがあるか不明であるというべきであるから第一審判決の右の違法は判決に影響を及ぼすべき法令違反があるものと断ぜざるを得ない。しかして右判決及びこれを維持した原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと本裁判官は思料する(刑訴法第四一一条の解釈上、同条にいわゆる「原判決」の瑕疵のなかには原判決が触れざる第一審判決の瑕疵をも含むものと解する)。
刑訴第四一一条に所謂「著しく正義に反する」と認められる例――処断刑が適用法条からは有期懲役である筈なのに主文において無期懲役に処した場合
刑訴法335条1項,刑訴法411条
判旨
判決書の主文と理由に食い違いがある場合であっても、記録上自白の任意性が認められ、重大な事実誤認がない限り、直ちに判決に影響を及ぼすべき法令違反があるとはいえず、刑訴法411条を適用して破棄すべきものとは認められない。
問題の所在(論点)
第一審判決において、適用法条(理由)から導かれる刑の種類・範囲と、実際に言い渡された主文の刑が矛盾している場合に、これを維持した原判決に刑訴法411条を適用して破棄すべき重大な法令違反があるといえるか。
規範
判決書における主文と理由の不一致が、直ちに判決に影響を及ぼすべき法令の違反(刑訴法411条1号)にあたるかについては、判決全体の論理的整合性や記録上の証拠関係に照らし、著しく正義に反すると認められる事由があるか否かによって判断される。
重要事実
被告人は殺人等の罪で起訴され、第一審判決は理由中で「刑法199条、45条前段、47条、10条、14条」を適用法条として掲げた。同条項に基づく処断刑の上限は20年以下の有期懲役となるはずであったが、主文では「被告人を無期懲役に処する」と言い渡された。控訴審はこの矛盾を黙過して控訴を棄却したため、被告人側が自白の不任意や事実誤認、法令違反等を理由に上告した事案である。
あてはめ
多数意見によれば、被告人の自白に強制や不任意な点は認められず、記録上も原判決に重大な事実誤認があるとは認められない。反対意見は、主文は理由の結果である以上、理由と主文が食い違う場合は何れに誤りがあるか不明であり、破棄しなければ著しく正義に反すると主張するが、多数意見は判決全体として重大な瑕疵はないと判断し、刑訴法411条の適用を否定した。
結論
本件上告を棄却する。判決の主文と理由に矛盾があっても、それが判決の基礎となる事実認定や自白の任意性に影響を及ぼすものでない限り、破棄事由にはあたらない。
実務上の射程
主文と理由の不一致という形式的な瑕疵があっても、実体的な正義(事実認定や自白の任意性)に問題がなければ、刑訴法411条による職権破棄の対象とはならないとする、裁判所の抑制的な態度を示すものである。答案上は、判決の形式的違憲・違法が「著しく正義に反する場合」に該当するかを検討する際の基準として参照しうる。
事件番号: 昭和26(あ)2200 / 裁判年月日: 昭和26年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】殺意の有無に関する事実誤認や量刑不当の主張は、刑事訴訟法405条所定の上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人は、殺意の有無に係る事実誤認、量刑不当、訴訟法違反、および原判決自体に対するものではない法令違反を理由として上告を申し立てた。 第2 問題の所在(論点):事実誤認や量…