所論のAについては、同人は第一審公判廷外において証人として喚問され、その訊問には弁護人が立会い(被告人は勾留中で立会つていない)所要の訊問を裁判長に求めていること記録上明瞭である。かようにこの証人の供述については既にその訊問調書作成の当時弁護人に対し反対尋問の機会が与えられているのであるから、右同人を第二審である原審が一旦証人として喚問すべき旨決定した後事情により右決定を取消した上、第一審における同人の訊問調書中の供述記載を証拠に採つても所論憲法第三七条第二項に違反するものではない。このことは当裁判所大法廷判例の趣旨に徴し明らかである。(昭和二四年(れ)第七三一号同二五年三月一五日、昭和二五年(れ)第二七三号同年一一月一五日各大法廷判決参照)
憲法第三七条第二項に違反しない一事例
憲法37条2項
判旨
殺意のような犯罪の主観的要件については、被告人の自白のみに基づいて認定しても憲法38条3項に違反しない。また、第一審で反対尋問の機会が与えられた証人尋問調書は、後の事情変更があっても証拠とすることが認められる。
問題の所在(論点)
1. 殺意などの主観的要件の認定に、自白以外の補強証拠が必要か(自白の補強法則の範囲)。 2. 第一審で反対尋問の機会があった証人の訊問調書を、第二審で新たな尋問を行わずに証拠とすることは、被告人の証人審問権を侵害しないか。
規範
1. 憲法38条3項の補強証拠の要否について:犯罪事実の全部にわたって補強証拠を必要とするものではなく、殺意等の犯意(主観的要件)については、被告人の唯一の自白のみによって認定することが可能である。 2. 憲法37条2項の証人審問権について:第一審の受命裁判官等による証人尋問において、弁護人に反対尋問の機会が与えられていたのであれば、その後の審級で当該証人を再度召喚せず訊問調書を証拠としても、同条に違反しない。
重要事実
被告人は殺人罪で起訴され、原審において殺意の存在が認定された。その際、殺意については被告人の自白が主な根拠とされた。また、第一審で証人尋問が行われたA(当時は被告人の妻で宣誓供述をせず、弁護人が立ち会い反対尋問の機会があった)の訊問調書が証拠として採用された。控訴審において、Aは被告人と離婚し宣誓適格を得ていたが、原審は一度決定したAの証人喚問を取り消し、第一審の訊問調書を証拠として採用して事実を認定した。
あてはめ
1. 補強法則の適用範囲について、判例は「犯罪事実の全部」に補強を求めるものではないとする。本件の殺意は犯意という主観的事実であり、自白のみによる認定は憲法38条3項及び刑訴応急措置法10条3項に抵触しない。 2. 証人審問権については、Aの訊問時に弁護人が立ち会い、訊問を求める等の反対尋問の機会が保障されていた。離婚により宣誓適格が生じたという事情変更があっても、既に与えられた反対尋問の機会の有効性は失われず、証拠採用は適法である。
結論
1. 殺意の認定に補強証拠は不要であり、自白のみによる認定は合憲である。 2. 反対尋問の機会が確保されていた以上、第一審の証人訊問調書を証拠採用することは合憲である。
実務上の射程
自白の補強法則が「罪体(客観的事実)」に限定され、主観的要件には及ばないことを示す重要判例。答案上では、補強法則の範囲を論じる際に「主観的要件は不要」とする根拠として引用する。また、伝聞例外や証人審問権の文脈で、反対尋問の「機会」の付与をもって憲法的要求を満たすとする判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)5685 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠は、犯罪事実の全部を証する必要はなく、自白が真実であることを保障する程度で足りる。殺意のような主観的要素については、自白以外にその存在を推認させる補強証拠が存在すれば、補強法則の要件を満たす。 第1 事案の概要:被告人が殺人の罪に問われた事案において、第一審判決が提示した証拠に基づき…