一 元來被告人が犯行を否認する事件では動機の判明しないのがむしろ普通でありそうなことだが動機が不明でも犯罪の事實が相當の程度に立證されれば理由不備にはならない。 二 第一審裁判所に勾留原因開示の申立をしたのに、裁判所が何等これに對し、裁判をしなかつたのは、舊刑訴法第四一〇條第一五號の法意に違反するものであると主張する。しかし第一審裁判所は右の勾留原因開示の申立に應じて開示をしているのであつてそれ以上申立についての決定をする必要はないのである。
一 犯行否認の事件において動機不明の場合に犯罪事實の立證程度 二 勾留原因開示の申立に對し裁判所が勾留原因を開示した場合と申立に對する決定の要否
舊刑訴法337條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法410條19號,舊刑訴法410條15號
判旨
複数の間接事実(情況証拠)を総合して、それらがいずれも被告人が犯人であることを指し示している場合には、個々の証拠では不十分であっても、それらを総合して犯罪事実を認定することが許される。また、犯行の動機が不明であっても、他の証拠により犯罪事実が相当程度に立証されれば、有罪判決の理由不備にはならない。
問題の所在(論点)
直接証拠を欠く情況証拠のみの事件において、複数の間接事実を総合して有罪を認定することの是非、および犯行の動機の認定が有罪判決の不可欠な要件であるか。
規範
刑事裁判における事実の認定は、直接証拠がない場合であっても、複数の間接事実(情況証拠)を総合して判断することが認められる。その際、個別の事実が単独では犯行を確証し得ないものであっても、それらが互いに矛盾なく関連し、全体として被告人が犯人であることを合理的な疑いを超えて推認させる場合には、犯罪事実の認定が可能である。また、殺意や動機の認定は必須ではなく、犯罪の客観的事実が立証されれば足りる。
重要事実
被告人が殺人罪で起訴された事案。犯行を直接裏付ける証拠はなく、被告人は否認を続けていた。原審が認定した主な間接事実は、①犯行時刻前後に被告人が被害者宅付近を徘徊していたこと(時間的・場所的近接性)、②被告人が不自然なアリバイ工作を行い供述を変遷させたこと、③被告人が犯行時に着用していたとされる軍衣の袖に、被害者の嘔吐物と推定される汚物が付着していたこと(物的証拠)、④その付着位置が背後から絞め殺すという犯行態様と整合することの4点であった。弁護側は、各証拠の証明力が不十分であり、かつ犯行の動機も不明であるとして事実誤認を主張した。
あてはめ
まず、軍衣の袖に付着した汚物が被害者の吐瀉物と同種類であるとの鑑定結果は、犯人と結びつける有力な物的証拠となり得る。また、その付着位置が犯行態様(背後からの頸部強扼)から常識的に判断して整合的であることも、犯人性を強く推認させる。さらに、犯行時間帯における現場付近での目撃証言や、被告人による不自然なアリバイ工作という情況を併せれば、個々の証拠は決定的でなくとも、全体を総合した原審の事実認定は順当である。次に、動機の解明については、被告人が否認する事件では不明なことも多く、客観的な犯罪事実が立証されている以上、動機不明を理由に判決を破棄する必要はない。
結論
間接事実を総合した有罪認定は適法であり、動機が不明であっても犯罪事実の立証があれば足りる。本件上告を棄却する。
実務上の射程
情況証拠のみで立証を行う際の総合評価の重要性を示す。答案では、各間接事実を挙げた上で、それらをバラバラに論じるのではなく「これらを総合すれば、被告人が犯人であることに合理的な疑いを入れる余地はない」といった論法の根拠として用いる。また、動機の不解明が直ちに認定を妨げない点も実務上重要である。
事件番号: 昭和24(れ)2264 / 裁判年月日: 昭和24年12月6日 / 結論: 棄却
論旨第一點は、原審が本件犯行の核信ともいうべき被告人の犯意を被告人の法廷外における自白のみによつて認定したのは、憲法第三八條第三項および刑訴應急措置法第一〇條第三項違反であると主張する。しかし、自白に補強證據を要するということはその自白が架空のものでないことを證明するに足りるものであることは、當裁判所の判例とするところ…