一 原審が「死なうと生きようと何うなつても構わねという気持になつた」旨の供述のみを證據にとり「當時の氣持は今考えて見て良く判りません」との供述を無視したことに、採證の原則に反する違法がある、と非難するのであるがこの二つの供述は別々の機會にされたのであつて被告人の犯罪事實を認める供述と否認する供述とがある場合その何れを採るかは裁判官の自由心證にゆだねられているところである(昭和二三年(れ)第一四六號、同二四年二月九日言渡大法廷判決)原審が前の供述を證據に採つて事實認定をしたことは違法ではない。 二 論旨は、原審が被告人の殺意を本人の自白のみによつて認定し殺意の點を除く餘の事實で證明されたのならば傷害致死であるべきものを殺人として斷罪したのは違法なりとする。しかし犯罪事實の一部につき證據として本人の自白があるだけで他の證據がない場合でもその自白と他の證據とを綜合して犯罪事實全体を認定することは、刑訴應急措置法第一〇條第三項の規定に違反するものでないこと、當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第一三六號同年一二月一六日第三小法廷判決、昭和二二年(れ)第一五三號同二三年六月九日大法廷判決)
一 犯罪事實につき別々の機會になされた被告人の自認の供述と否認の供述についての採證の自由 二 犯罪事實の一部につき本人の自白の外他に證據がない場合と刑訴應急措置法第一〇條第三項
舊刑訴法337條
判旨
被告人の自白と他の証拠を総合して犯罪事実全体を認定できる場合、殺意などの主観的要件が自白のみに基づき認定されていても、自白の補強証拠を欠くものとして違憲・違法となることはない。
問題の所在(論点)
殺意という主観的犯罪構成要件について、被告人の自白以外に直接的な証拠がない場合に、当該自白のみに基づいて殺意を認定することが、自白の補強法則(憲法38条3項、刑訴法319条2項)に抵触しないか。
規範
犯罪事実の一部(殺意等の主観的要素を含む)について、証拠として本人の自白があるのみで他の直接的な証拠がない場合であっても、その自白と他の証拠(客観的事実に関する証拠等)とを総合して犯罪事実全体を認定することは、補強証拠の原則に反しない。
重要事実
被告人が殺人の罪で起訴された事案において、被告人は検察官に対し「死なうと生きようと何うなつても構わぬと云ふ気持になつた」旨の供述(未必の殺意を認める自白)をしていた。一方で、別の機会には「当時の気持は良く判らない」とも供述していた。原審は、前者の自白を証拠として採用し、他の客観的事実とあわせて殺意を認定し、殺人罪の成立を認めた。
あてはめ
裁判官は自由心証により、相反する供述のうち信憑性がある一方を採用して事実を認定できる。本件では、未必の殺意を認める自白が存在し、その自白内容と、殺意以外の客観的側面を証明する他の証拠を総合することで、犯罪事実の全体像を把握することが可能である。したがって、主観的要素である殺意の認定において、補強証拠が自白と完全に重なる必要はなく、全体として事実の真実性が担保されれば足りる。
結論
被告人に殺意があったと認定し、殺人罪の成立を認めた原判決は正当であり、補強法則の違反はない。
実務上の射程
主観的構成要件(殺意、不法領得の意思等)について、客観的な補強証拠が乏しい場合であっても、自白が存在し、かつ客観的状況からその自白の真実性が裏付けられるならば、自白のみによる認定として排除されることはないという実務上の運用を支える判例である。
事件番号: 昭和24(れ)1242 / 裁判年月日: 昭和24年11月12日 / 結論: 棄却
原判決が被告人の殺意の點を被告人に對する司法警察官の訊問調書中同人の自分がAに斬付けたときは、死ぬなら死んでもよいと思つた、犯行後急いで駐在所に行つたが其のとき傷が大きいから死んでしまつたかと思つた旨の供述記載によつて認めていることは所論の通りである。しかし法律が何人も自己に不利益な唯一證據が本人の自白である場合には有…