使用者Yが、変更後の就業規則等に基づく新たな賃金体系の下で、日々の業務内容等に応じて決定される月ごとの賃金総額から基本給等の額を差し引いた額を割増賃金の額とした上で、そのうち基本給等を通常の労働時間の賃金として労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定に定められた方法により算定した額を残業手当等の額とし、上記割増賃金の額から残業手当等の額を差し引いた額を調整手当の額としていた場合において、次の⑴~⑷など判示の事情の下においては、YのXに対する残業手当等の支払により同条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ Yは、新たな賃金体系の導入に当たり、賃金総額の算定については従前の取扱いを継続する一方で、従前の賃金体系の下において自身が通常の労働時間の賃金と位置付けていた基本歩合給の相当部分を新たに調整手当として支給するものとした。 ⑵ 従前の賃金体系の下においては、基本給及び基本歩合給のみが通常の労働時間の賃金であったとしても、Xに係る通常の労働時間の賃金の額は1時間当たり平均1300~1400円程度であったことがうかがわれる一方、調整手当の導入の結果、新たな賃金体系の下においては、基本給等のみが通常の労働時間の賃金であるなどと仮定すると、Xに係る通常の労働時間の賃金の額は1時間当たり平均約840円となる。 ⑶ Xについては、1か月当たりの時間外労働等は平均80時間弱であるところ、これを前提として算定される残業手当等をも上回る水準の調整手当が支払われている。 ⑷ 新たな賃金体系の導入に当たり、YからXを含む労働者に対しては、基本給の増額や調整手当の導入等に関する一応の説明がされたにとどまり、従前の賃金体系の下における基本歩合給の相当部分を調整手当として支給するものとされたことに伴い生ずる変化について、十分な説明がされたともうかがわれない。 (補足意見がある。)
雇用契約に基づく残業手当等の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断に違法があるとされた事例
労働基準法37条
判旨
固定残業代制において、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できるというためには、名目だけでなく、賃金体系全体における当該手当の位置付けや、労働時間等の勤務実態、変更の経緯を総合考慮して、実質的に時間外労働の対価としての性格を有するかを判断すべきである。
問題の所在(論点)
基本給等から算出される「本件時間外手当」およびその差額である「調整手当」の支払が、労働基準法37条の定める割増賃金の支払として認められるか。特に、通常の労働時間の賃金部分との判別可能性が認められるかが問題となった。
規範
労働基準法37条の割増賃金の支払といえるためには、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分とを判別できる必要がある。ある手当が同条の割増賃金か否かは、契約書の記載、使用者の説明内容、実際の労働時間等の勤務状況を考慮し、同条の趣旨を踏まえ、名称や算定方法だけでなく賃金体系全体における位置付けを留意して検討すべきである。
重要事実
運送会社である被告は、労基署の指導を機に、従来の「基本歩合給」を大幅に減額し、新たに「本件時間外手当」と「調整手当」を導入した。しかし、新体系導入後も労働者の賃金総額や労働実態は変わらず、調整手当は基本給等の算定額と賃金総額の差額として機械的に算出されていた。また、基本歩合給の一部が名目上これらに置き換わった結果、通常の労働時間の単価が以前より大幅に低下する計算となっていた。
あてはめ
本件の時間外手当と調整手当は、一方の額が決まれば他方が決まる関係にあり、単に計算上の数額に名称を付したに過ぎない。また、実質的には旧体系の通常の賃金(基本歩合給)を名目上置き換えたものであり、これを割増賃金と仮定すると、通常の労働単価が不自然に低額(1400円弱→840円)となる。さらに、実際の残業時間を超える過大な残業代を見込んだ不自然な体系でありながら十分な説明もない。したがって、本件手当は通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分を相当程度含んでおり、両者を判別することはできない。
結論
本件割増賃金の支払により、労働基準法37条の割増賃金が支払われたということはできない。
実務上の射程
固定残業代の「判別可能性」について実質的な判断を示した。単に計算式が示されているだけでなく、従前の賃金水準との比較や、通常の労働時間の賃金単価が低くなりすぎていないかという「実質的な対価性」が厳格に審査される。答案では、単価の逆算や制度変更の経緯を拾い、脱法的な名目替えを否定する論法として活用すべきである。
事件番号: 平成27(受)1998 / 裁判年月日: 平成29年2月28日 / 結論: 破棄差戻
歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則上の定めが公序良俗に反し無効であると判断するのみで,当該賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かや,そのような判別を…