信用金庫が、就業規則を変更し、完全週休二日制を実施する一方で、平日の所定労働時間を二五分間延長した場合において、平日の所定労働時間の延長は労働条件を不利益に変更するものであるが、右就業規則の変更により年間所定労働時間に大きな差は生じず休日が増加するから、従業員の被る不利益は全体的、実質的にみて必ずしも大きいものではなく、他方、右信用金庫にとって避けて通ることができなかった完全週休二日制を実施するためには平日の所定労働時間を画一的に延長する経営上の必要性があり、右変更後の所定労働時間は当時の我が国の水準としては必ずしも長時間ではないなど判示の事情の下では、右変更は、合理的内容のものであり、これに同意しない従業員に対しても効力を生ずる。
完全週休二日制の実施に伴い平日の所定労働時間を二五分間延長する就業規則の変更が有効とされた事例
労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)89条1項,労働基準法93条
判旨
就業規則の変更により労働者に不利益を及ぼす場合であっても、当該変更が、労働者が被る不利益の程度、使用者の変更の必要性、変更後の内容の相当性等に照らし、合理的なものである限り、個別の同意がなくとも労働者を拘束する。本件の週休二日制導入に伴う平日労働時間の延長は、全体的な労働時間の短縮や経営状況に照らせば、合理性を有し有効である。
問題の所在(論点)
労働者の同意なく就業規則を不利益に変更する場合において、その変更が労働者を拘束するための要件(合理性の判断基準)が問題となる。
規範
就業規則の不利益変更が労働者を拘束するか否かは、①変更によって労働者が被る不利益の程度、②利用者側の変更の必要性の内容・程度、③変更後の就業規則の内容自体の相当性、④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、⑤労働組合等との交渉の経緯、⑥他の労働組合又は他の従業員の対応、⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮し、当該変更が「合理的なもの」であるか否かによって判断する。
重要事実
信用金庫である上告人が、完全週休二日制(土曜一律休日化)の導入に伴い、平日の終業時刻を20分繰り下げ、所定労働時間を1日7時間10分から7時間35分に延長する就業規則の変更を行った。従組(労働組合)は反対したが、上告人は変更を強行。当時、上告人は経営効率が最低水準にありコスト抑制の必要があった。他方、変更後の年間総労働時間は、従前よりわずかに短縮されており、週37時間55分という労働時間は当時の社会水準に照らして長時間とはいえないものであった。
あてはめ
①不利益の程度:平日の25分延長は一見不利益だが、土曜休日化による休日の増加という大きな利益があり、年間総労働時間も減少しているため、実質的不利益は必ずしも大きくない。②必要性:政府の週休二日制推進方針への対応に加え、経営効率が劣位にある中で賃金コストを維持しつつ労働量を確保する必要性は高い。③相当性:変更後の労働時間は当時の社会水準に照らし妥当である。④交渉経緯:組合との協議が十分とは言い難い面はあるが、他の諸要素を総合すれば、不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の合理性がある。
結論
本件就業規則の変更は、不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の合理的なものである。したがって、同意しない被上告人らに対してもその効力が及ぶ。
実務上の射程
労働契約法10条の「合理性」判断のリーディングケースである。不利益の内容が賃金や労働時間という基幹的条件であっても、代償措置(休日の増加)や企業の経営上の必要性、社会的一般水準との比較によって合理性が肯定され得ることを示しており、答案上は各考慮要素を事実に基づき総合評価する枠組みとして用いる。
事件番号: 平成4(オ)2122 / 裁判年月日: 平成9年2月28日 / 結論: 棄却
銀行が、就業規則を変更し、五五歳から六〇歳への定年延長及びこれに伴う五五歳以降の労働条件を定めた場合において、従前は、勤務に耐える健康状態にある男子行員が希望すれば五八歳までの定年後在職制度の適用を受けることができるという事実上の運用がされており、右変更により、定年後在職者が五八歳まで勤務して得ることを期待することがで…
事件番号: 平成9(オ)2197 / 裁判年月日: 平成12年9月22日
【結論(判旨の要点)】就業規則の変更により労働者に不利益をもたらす場合であっても、当該変更が、不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、代償措置の有無、労働組合等との交渉の経緯等の諸事情に照らし、合理的なものであるときは、個別の同意がなくとも効力を有する。 第1 事案の概要:信用金庫であるX(被告・上告人)は、…