一 運賃値上げの認可を機会にされたタクシー会社の乗務員の歩合給の計算方法を定める就業規則の不利益変更につき、従前の計算方法は、それが労使間で合意された時点の運賃を前提にしたもので、運賃値上げ後は労使双方で速やかに協議し直すことが予定されていたものであり、また、会社内の甲労働組合との間の協議は不調となったが、乙労働組合との間では新計算方法について合意が成立している等、判示の事情の下では、右変更の必要性を肯認することができる。 二 運賃値上げの認可を機会にされたタクシー会社の乗務員の歩合給の計算方法を定める就業規則の不利益変更につき、新計算方法に基づき支給された乗務員の賃金が全体として従前より減少していない場合には、それが従業員の利益をも適正に反映しているものである限り、右変更の内容の合理性を肯認することができる。
一 タクシー会社の乗務員の歩合給の計算方法を定める就業規則の不利益変更につきその必要性を肯認することができるとされた事例 二 タクシー会社の乗務員の歩合給の計算方法を定める就業規則の不利益変更と変更内容の合理性
労働基準法89条
判旨
就業規則の不利益変更は、変更の必要性及び内容の両面からみて、労働者が被る不利益を考慮してもなお法的規範性を是認できるだけの合理性を有する場合に有効となる。
問題の所在(論点)
使用者が就業規則を一方的に変更し、賃金体系(歩合給の計算方法)を労働者にとって不利益に変更することの可否。労働者の個別同意を欠く就業規則変更が法的規範性を有するための要件。
規範
新たな就業規則により労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されない。しかし、就業規則の変更が、その必要性及び内容の両面からみて、労働者が被る不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係において法的規範性を是認できるだけの合理性を有する場合には、個々の労働者の同意がなくても効力を生じる。内容の合理性は、賃金額が全体として減少していないか、労働強化によるものではないか、諸条件の低下が急激かつ大幅でないか、他組合との交渉経緯や利益調整の有無等を総合考慮して判断すべきである。
重要事実
タクシー会社Xには2つの労働組合があり、賃金規程では歩合給(運賃収入から一定額を控除した額に支給率を乗じる方式)を定めていた。運賃改定に伴い、Xは歩合給の計算方法変更を提案。多数派組合とは新計算方法(控除額増・支給率減)で合意したが、少数派組合の被上告人らは反対した。Xは就業規則を変更して新計算方法を導入。被上告人らが、旧計算方法による賃金との差額を求めて提訴した。
あてはめ
必要性について、歩合給は運賃を前提とするため運賃改定時に協議し直すことが予定されており、事業者の適正利益確保の観点からも必要性が認められる。また、歩合給は全乗務員に共通する事項であり統一的処理に親しむ。内容の合理性について、原審は高度の経営上の必要性がないこと等を理由に否定したが、以下の検討が不可欠である。まず、新計算方法による賃金総額が旧方法と比較して全体として減少していないか、減少がないとしても労働強化の結果ではないかを確定すべきである。さらに、控除額増等の変更が急激かつ大幅な低下でないか、他組合との合意形成の経緯において利益調整が図られているか等、実態に即した総合的な判断が必要である。
結論
本件就業規則変更の合理性については、不利益の程度や代償措置、交渉経緯等の具体的検討が必要である。原審はこれらの認定判断を怠っており、審理不尽・法令解釈の誤りがあるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
労働契約法10条の「合理性」判断のリーディングケースであり、答案上は同条の判断要素(不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、交渉の状況等)を挙げる際の解釈指針として用いる。特に賃金という重要条件の変更であっても、他組合との合意等の「交渉の状況」が合理性を補強する一要素になり得る点に留意が必要である。
事件番号: 昭和55(オ)379 / 裁判年月日: 昭和58年11月25日 / 結論: 破棄差戻
使用者が就業規則中の「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち年間二四日を有給とする。」との規定の後段を「そのうち月二日を限度とし、一日につき基本給の一日分の六八パーセントを補償する。」と一方的に変更した場合において、右変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たつては、変更の内容及び必要性の…